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今夜の番組チェック

お奨め本メール
2001年5月〜9月


01.5.20
「岡山女」岩井志麻子 角川書店

時代は明治。ところは岡山。
妾(めかけ)をしていたタミエは、旦那が事業に失敗し、無理心中を図られる。
一命をとりとめたものの、片目をなくし、タミエには不思議な霊感が備わった。
妾の次は霊媒と、娘に稼がせ感謝することを知らない両親によって巧みにPRされ、「岡山市内に霊感女性あらわる」と新聞にまで出る。
珈琲液、ステン所、美人絵葉書、ハレー彗星。当時のハイカラ風俗がたいへん興味深い。ちなみにステン所ってのはステーション、駅のことですね。
前作、日本ホラー小説大賞受賞の「ぼっけえ、きょうてえ」と同じく岡山弁で交わされる会話が、朴訥のようで不気味なようで。独特の味わいをかもし出しています。
ホラーというより怪談。
妖怪は出ないけど幽霊は出る。死霊も怖いけど生霊はもっと怖い、それより何より怖いのは生きている人間だ。
夏の夜にお奨めです。


(01.5.27)
「幼稚園バス運転手は幼女を殺したか」小林篤 \2,200 草思社

ノンフィクションです。
1990年五月、栃木県足利市で四歳の女の子がパチンコ店の駐車場から姿を消した。
翌日、性的いたずらをされ惨殺された姿で発見される。
実は、足利市近隣では1979年8月、84年11月にも五歳の少女が殺害されており、そのいずれも未解決のままだった。
警察の威信をかけて、なにがなんでも解決しなくてはならない。文字通りの不眠不休で捜査にあたり、心労により死亡する捜査員まで出たほどだった。
にもかかわらず、容疑者が特定できない。それどころか、目撃者すら見つからない。手がかりすらつかめないまま事件は長期化の様相を示し、警察は市民からの非難にいっそう焦る。
そして浮かび上がった容疑者。
事件から一年半後、幼稚園バス運転手である菅家利和が逮捕された。
44歳の独身男性。子供と遊ぶのが好きで、家ではポルノ映画のビデオを見、犯行現場となったパチンコ店に出入りしていた。
犯人は自供し、DNA鑑定は一致する。菅家は無期懲役の判決を受け、その後自供をひるがえすが控訴も上告も退けられ、判決は確定する。
しかし、本当に菅家は真犯人なのか。
目撃者はいない。物証もない。証拠は菅家の自供とDNA鑑定の結果だけだ。
菅家は知能程度がやや低い。捜査官が「かわいそうだと思わないのか」と問えば、「かわいそうです」と答える。このとき、捜査官は「こんなひどいことをして」と犯罪の実行を言っているのに対し、菅家は「殺された幼女がかわいそうだ」と単純に感じたままを答えているのだ。そこに齟齬が生じ、捜査官は「やはりこいつがやったんだ」と思い、取調べは決め付ける方向へ進んでいく。
そしてDNA鑑定。
鑑定の元になった、犯人の精液が付いた下着は、川から引き上げられた。その時点で精液のほとんどは流出してしまっていた。本来、鑑定できるだけの量は残っていなかったものを無理に鑑定した。それは菅家との同定検査にぎりぎりで、これで不一致との結果が出た場合、次に容疑者が出ても、二度と鑑定はできない事が始めからわかっていた。すなわち、この鑑定は最初から一致することが求められていた。一致しなければならなかった。
菅家は犯人でなければならなかった。
菅家はその後、取調べによって、それ以前の2件の事件も自供した。
警察は、連続幼女事件は終結したと考えた。
だが。
菅家が逮捕され、二審判決が下された2ヶ月後。足利市の隣、太田市で四歳の幼女が失踪した。 これはなにを意味するのか。


(01.6.3)
「ぶたぶた」矢崎存美 \1,429 廣済堂出版 
「刑事ぶたぶた」\1,400 廣済堂出版
「ぶたぶたの休日」\590 徳間書店(デュアル文庫)

このタイトルから、ストーリーを想像できた人はえらい。
いや、できないはずだ。
「ぶたぶた」 それはぶたのぬいぐるみ。ピンク色で、バレーボール大。突き出た鼻と、黒ビーズの目。手足の先には濃いピンクの布。大きな耳は、右側が少しそっくり返っている。
本名「山崎ぶたぶた」 ははぁ、ぬいぐるみの視点で物語を展開するって奴だな。宮部みゆきの「パーフェクト・ブルー」や、マイクル・Z・リューインの「のら犬ローヴァー 町を行く」みたいに(両方とも主人公は生きた犬だが)。と思ったあなた、それは普通の発想です。
たしかに、間違いではない。しかし、「ぶたぶた」は、ぬいぐるみの視点で見ていない。
ぬいぐるみなんだけど、人間と同じように、動いて食べて仕事してる。生活してる。人間の社会の中で。ぬいぐるみとして。
初めて会った人はみな驚く(そりゃそうだ)。
でも、認めちゃう。

いろんな仕事をしてるぶたぶたが登場します。短編集なの。
タクシー運転手だったり、フランス料理のシェフだったり、殺られ屋だったり。普通のサラリーマンのこともあるし、「刑事ぶたぶた」では刑事だし(当然か)。
よくわからない? うん、ストーリー聞いてもわからないと思う。これは読んでみなくちゃ。
いやもう、かわいいんだよ〜。ぬいぐるみ好きも、そうでない人も、ぶたぶただったら好きになる。一緒に暮らすのも楽しそう。
でも、ぶたぶた結婚してるから。子供もいるの。お父さんなんだよ(母ではない。なんと、ぶたぶたは中年男性なのだ!)。
皆さん、ぜひ「ぶたぶた」の世界をご堪能ください。


(01.6.10)
「円周率を計算した男」鳴海風(なるみ・ふう)\1,800 新人物往来社

江戸時代、鎖国の日本で独自の発達を遂げた和算の世界。
一生をかけて円周率を計算した男、妻帯せずひたすら研究に励む男、旅すがら算学を広め後継の道を作る男。

算額奉掲というものがある。元々は算学上達を願って奉納する絵馬のことだったのが、腕に自慢の算学家が問題を書いて掲げるようになったもの。その算額を見たものが解いてやろうとチャレンジする。そうやって腕を磨きあう。
遺題承継。算学の本を出版するにあたり、回答を載せない問題をつける。読者がチャレンジして、自分が出版する本に回答を載せ、新しく問題を載せる。
遊歴算家。旅から旅へ。地元の名士や算学家志望の若者たちに知識を広める。

今でもそうだけど、この頃の日本も世界きっての識字率を誇っていた。
西洋において数学とは一部の数学者だけのものだった。 しかし日本では、地方の名士や大店の旦那衆はよく算学をたしなんだ。これは趣味である。算学を趣味と捉える心意気。かーっ、いいねえ!
あ、この本は別に研究書でもなんでもないです。
つまり、時代小説です。算学ものってちょっと流行ってるんだよね。今はちょっと下火かな。去年くらいまで2〜3年、けっこう出てました。


(01.6.17)
「白の闇」ジョゼ・サラマーゴ \2,300 NHK出版

ある日、一人の男が突然失明した。
視界が真っ白になり、目医者が診察しても悪いところは何もない。
その男を皮切りに、次々に人が失明していく。
失明した男をアパートまで送った男。男を診察した目医者。その診療所に居合わせた人々。原因不明のまま、失明が伝染する。
失明した人々は、使われていない精神病院を収容所にして隔離される。
食料は届かない。水も出ない。看護する人もいない収容所ではシャワーで身を清潔に保つどころか排泄すら然るべき処では行えない。
極限状態で、人々の尊厳は踏みにじられる。
収容所の外でも感染は広がる…。

作者のジョゼ・サラマーゴは1998年のノーベル文学賞受賞者である。
ノーベル賞って、受賞者の研究のどこが受賞に値するのか一般の人には分かりにくいことがたいていなんだけど(少なくとも私には、例えばノーベル経済学賞の「ミクロ計量経済学」がどーのこーのと言われても、何がなにやらぜんぜんわからん。他の賞も同じく)、文学賞は直接その価値に触れやすい分野ではあると思う。
なんて言って、他になにを読んでいると問われると答えに窮するのだが。
でも、ゴールディングの「蝿の王」は私のベストの中の一冊だ。

さて、「白の闇」。文体が独特である。
ページを開くとびっしりと文字。 セリフが「」されてなくて、地の文と連なっている。改行も少ない。
登場人物には名前がなく、「最初に失明した男」「医者」「医者の妻」「サングラスの女」といった具合である。なのに、読みやすかったりするのだ。すごい。
なにしろ私は「」がないことに50ページくらい読むまで気が付かなかった。自然に読めるから。
ノーベル賞だからと気構えずに、気楽に読んでみるといいと思う。
私も、読み終わって解説読むまでノーベル賞作家って知らなかった(普通、受賞者の名前なんていちいち知らないよね)。
パニックものとしても、バイオサスペンスとしても楽しめます。


(01.6.24)
「グルメの話 おいしさの科学」伏木享 \1,400 恒星出版

京都大学農学研究科の教授が書いた、まじめな本。 …いや、まじめというか…学術書とは違うが…。
文章なんかやけに面白くて、読んでて噴出しちゃったり。
例えばカレーのおいしさを考える。ゼミの学生たちがカレーを持ち寄る。徹夜で煮込んだという学生もいる。
「徹夜なんかして、授業はどうしたの」「授業なんて出てる場合じゃありません」
この返事に対するコメントが、「京大の未来は明るい」。

カニを食べに行って、みな夢中で無口になる。学生に話しかけて 「センセ、今忙しいです」と叱られたりする。

ねずみにソースを与え、嗜好を調べる。10%のソースを加えた餌にねずみが群がる。
1%では全然加えない餌と変わらない。ところが10%から5・4・3…と減らしていくと、1%でも匂いを頼りに群がるようになる。 そこらあたりを、「これだけで判断するのは素人である。次にこれこれこーゆー実験をします」「まだまだ。つぎはその確認実験を…」「なんて疑い深い人種なんだ」「職業病です」
なんか、いちいち語り口がかわいいわあ。

他にも、本来無味である脂肪をおいしく感じるのはなぜか、匂いと味の関係、減塩について、清潔と清潔らしさ、ビールは水よりも水を感じる、等々、興味深い事象について考察が並ぶ。
「グルメの話」とタイトルにはあるけれど、決して薀蓄たれの本ではなく、読み物として楽しい一冊です。


(01.7.1)
「いい音ってなんだろう」村上輝久 \1500 ショパン
副題・あるピアノ調律師、出会いと体験の人生

世界の名ピアニストたちに愛されて、世界中を飛び回った名調律師、村上輝久。
ピアニストたちの、「タッチが重い」「ちょっと弾きやすすぎたかな」「もっと甘く」そんな要求を、薄紙一枚分の微調整でこたえる。
その技は「ムラカミの手にかかるとピアノはストラディバリウスになる」とまで絶賛された。すごいなー。この表現、感動するよね。ここまで言ってもらえたら、調律師冥利に尽きることでしょう。
「ムラカミ! 今日のピアノはすばらしい!」コンサートが終わって袖に引っ込んできたと同時にこんな風に言われたら、そりゃさぞかし感動したことでしょう…村上氏の周りにはこんなエピソード満載である。
その村上氏、ヤマハの社員で、自分を「サラリーマンである」と言う。「サラリーマンにしてはちょっと変わった仕事だったかもしれない」って、ちょっとばかりでなく、変わってるぞ。
調律技術だけでなく、人間性もまた、ピアニストたちに愛された理由の一つ。
村上氏は謙虚で、控えめで、ひたすらいい音を求めてきた。
「いい音ってなんだろう」永遠のテーマを追いつづけて、仕事に誇りを持ち、奢らず、後輩たちの育成に力を注ぐ。
ピアニストたちのエピソードも感動的。リヒテルが、ヤマハの技術者たちのためにミニコンサートを開き、職人が涙ぐんだというシーンとか、ホロリときちゃった。


(01.7.8)
「オレは陽気ながん患者 心筋梗塞もやったぜ!」山中恒(ヤマナカ・ヒサシ) \1,700 風媒社

なんてインパクトのあるタイトルなんでしょう。 こんなの本屋で見かけたら、つい手にとって読んでみたくならない?
ほとんどヤケクソのようなタイトルだ。ここ何年かのタイトルベストワンだね。

著者の山中恒は、児童文学・ノンフィクション作家。
映画『転校生』の原作「おれがあいつであいつがおれで」の作者といえば分かりやすいでしょう。
その山中恒の医療エッセイです。

山中恒、本人も陽気で豪快だが、それ以上にすごいのが奥さん。
血尿が出て精密検査を受けに行った山中の検査結果を聞きに行って、「ご主人には言わないほうがいい」と言われたその足で公衆電話に向かい、 「お父さん、がんだって!」
この夫婦はあらかじめ、どちらかががんになっても隠しだてはしないと約束していたから、こういうこともアリなんだけど、実際ここまであけすけに言う妻も珍しい(^_^;)。
この奥さんの両親もまた剛の者で、父親が咽頭がんになったとき、告知された奥さん(山中の奥さんの母親)は、ちゃっちゃか「県立がんセンター」の入院を決めて、仕事から帰った旦那に「あんたは咽頭がんだから、あさって、私とがんセンターに行くんだよ」。
この親にしてこの子在り、という感じだが、信頼に裏打ちされた発言及び行動でありますな。理想的です。
ちなみに山中の奥さん、その両親は名古屋人。「名古屋女は情緒に欠けるが、いざというときは頼りになるかも」とは山中の弁。

基本的に山中のスタンスは、「知らないから怖い、知らないから正しい判断ができない、とにかく知識を得るべきだ」ということ。
だからこそ、この本を上梓したわけで。
同感。どんなことであれ、知識は大切。ましてや自分の体のことだもの。
がんも心筋梗塞も自分には縁がないと思いがちだけど、縁ができてからでは遅いんだよー。いざというとき適切な判断ができるようになってないとね。


(01.7.15)
「交通殺人」矢貫隆 \1,429 文芸春秋

ショッキングなタイトルだ。
世に警鐘を鳴らすために、もっと売れて欲しいと思う。
全五章+プロローグ、エピローグから成る本。

たとえば第一章「フェアレディ炎上」
パトカーに追尾された無免許運転の少年に追突され、フェアレディが炎上、乗っていた男女二人が焼死。
事故後、警察は無理な追尾はなかった、消火活動に手落ちはなかったと発表。けれどその発表は現実と乖離した内容だった。
実際に少年の車のすぐ後ろに迫っていたのに「途中で追跡を中止した」。目撃者は、パトカーが少年の車のすぐ後ろを追っていったと証言するのに。
消火活動にしても、応援の警官が無線連絡を受けて現場に着いた時ようやく、消火器を使い始めていた。応援の警官が来るまでの間、追跡パトカーの警官は何をしていたのか。何故すぐに消火に入らなかったのか。それでも警察発表は「速やかに消火活動を行った」。
フェアレディに乗っていた恋人たちは、ほとんど原形をとどめぬまでに炭化した。男性が女性をかばうように覆い被さっていたことで、女性の所持品はかろうじて燃え残り、身元は早々に判明した。にもかかわらず、遺族への連絡は遅れ、説明は不充分で、警察署に駆けつけた遺族は、生死さえ一夜明けるまで教えてもらえなかった。

警察は身内をかばう。警察は市民のためにあるのか、警察自身のためにあるのか。
本書に取り上げられている数件の事例の裏には、正しく処理された膨大な事故がある。しかし、表沙汰にならなかった不条理な事例もまた、影に多く潜んでいるのではと疑ってしまうのも故なき事ではないだろう。


(01.7.22)
「非行少女を処刑しろ!!」桃瀬葵 \1,400 集英社

姉・まりも。妹・くるみ。
両親を早くに亡くし、二人で暮らしてきた。
奨学金で大学に通うまりもが大学二年のとき、くるみが事件を起こす。同級生に睡眠薬入りのココアを飲ませ、冬の公園に放置して凍死させたのだ。
医療少年院送りになったくるみは、三年で退院。再び二人の共同生活が始まる。
中学教師となっていたまりもの収入は、賠償金で消える。四千万円にもなる賠償金の支払いで、玄米茶のふやけた玄米を拾って食べるほどに貧窮している。
そんな暮らしの中、くるみは働きもせず、まりもの金でクスリを買う。
教師の仕事の傍ら、まりもはビラ配りを始める。妹の顔写真入りの、「この女に近づかないように」とのビラである。
姉自ら妹の悪行を広め、指弾する。それだけでは足りず、写真週刊誌に売り込みをかける。一ページを使って顔写真のアップが掲載された。
少年法を変えるべく、まりもは闘う。
人権派弁護士の説得を弁舌で切り返し、くるみが新しく起こした事件の被害者をたきつけて、告訴させる。

姉・まりも。半端じゃない。
なんとかして妹を刑務所に送り返したい。逼迫した経済状態で、冬の夜、暖を取るために抱き合って眠りながら、まりもは策を練る。

一部、この説明はないほうがいいなあというような部分もあるけれど。
徹底した妹への攻撃が容赦なくて、それでいて危うくて、たいへん良いです。


(2001.7.29)
「楽しい地獄旅行」P・J・オローク(芝山幹郎・訳)\2,000 河出書房新社
副題:世界紛争地帯過激レポート  原題:Holidays in Hell

タイトルからして、シニカルですね。序文からちょっと引用してみましょう。  

私には「トラブル追跡観光客」の名がふさわしい。暴動、愚行、政情不安、騒乱、その他もろもろの狂気の沙汰――そんなものばかりを選んで私は見物に出かけた。理由は、えーと……それがおもしろいからだ。

いやー、ちょっとスゴイ。 紛争地帯に行って野次馬根性であちこち見て歩くのは面白いから。
ここまであけすけに、フツー言えないですよね。この本を出版したということで、日本はまだまだ大丈夫だなって気がしますよ。
日本での出版が1991年、原著の出版は1988年なので、内容的には古くなってます。この本の中では、ソ連でチェルノブイリ事故が起きたばかりだし、フィリピンではマルコスが失脚してアキノ大統領が就任して、南アは人種差別の法律(人口登録法とか)が廃止される前で、韓国では大統領選で金大中がノ・テウに敗れるといった具合。
だから当然のことながら、世界の現在の在りようを知るためにって理由ではこの本を読むことはお奨めできません。
実際、何かの役に立てるために読むための本じゃないな。
ていうか、まじめに世界平和について考えてる人が読んだら青筋たてて怒っちゃうかも。「不謹慎な!」って。ただねぇ、まじめに取り組んでる人たちが今までいろんな問題起こしてきたし、まじめに憂いてる人たちはそれを止められなかったんだよねえ。
もちろん、オロークは紛争も騒乱も望んでいるわけではない。平和を楽しめたらそれに越したことはないわけで。
この本の魅力はオロークの視点、「眼の深度と言葉の鮮度」である。
そして訳! 芝山幹郎というライター、初めて読んだけど気に入ったわー。サイコーにしゃれててユーモアのある訳文でした。


(2001.8.5)
「ドラゴン・フライ」上下 ブライアン・バロウ 筑摩書房
副題:ミール宇宙ステーション悪夢の真実

ロシアのミールとアメリカのシャトル共同計画。
ミール宇宙ステーションにアメリカ人宇宙飛行士が乗り込むミール計画では、おおっぴらにされなかった(あるいは話題に上らなかった、or握りつぶされた)数々の事故・事件が発生していた。
まず、そもそもの宇宙飛行士個人の問題。
アメリカ人宇宙飛行士はミールには乗りたがらず、NASAには選択肢がほとんどなかった。ロシアの心理学者に「長期の宇宙滞在に向いてない」と判断されても、押し切った。その結果、NASA職員を困惑させロシア当局を激怒させロシア人クルーを憤慨させるジェリー・リネンジャーのような男がミールに乗り込んでトラブルを巻き起こすことになる。
メカニックの問題もソフトウェアの問題も後を絶たない。
ミールの中で火事は起きる、貨物船との衝突事故は起きる、実験結果は不備だらけで、外貨獲得のためにミールの中でCMを撮影する。
「酸素発生装置の修理を中断して、牛乳のコマーシャルの撮影だ!」
さらに、当時宇宙船ソユーズにはクールスというコンピュータ制御ドッキングシステムが装備されていたのだが、クールス・システムはソ連時代キエフにある企業で作られていた。
ソ連崩壊後、キエフはウクライナの首都となった。で、ウクライナはクールスの価格をどんどん吊り上げ、ロシアの支払いが滞ると新規の出荷をとめる、あるいは部品の一部しか送らない。仕方がないんでロシアは新しいシステムに転換しようとするんだけど、新システムにトラブルは付き物です。またそれがロシアだしねえ。

ロシアの経済・政治・人間関係も絡まりあって、次から次とトラブルの連続。恐い恐い。
…それが面白い(^_^;)。


(01.8.12)
「AΩ(アルファ・オメガ)」小林泰三 \1,500 角川書店

日航機123便墜落事故の身元確認作業を描いた「墜落遺体」(飯塚訓・著 講談社)を思わせる場面から始まる。
よりにもよって、8月12日にこんなもの読んでしまって…。と胸が痛む。(今日読んだばかりなの)
ただし、それは冒頭だけ。
本作は、人がもうこれでもかってくらいに死んでいく、めちゃくちゃぞっとする話なんだけど、その実パロディ…だったりする。
なんのパロディか。それは読んでみてのお楽しみ、と言いたいところだけど、それだと読む気になれないでしょうねえ…。実は。
ウルトラマンのパロディなんです。
いやもう、読んでて仰天こきました。 「はあぁ〜っ!? なんや、コレ? こう来るかぁ〜!?」てなもんです。
読みはじめの厳粛な思いはどこへやら。
かと言って、人の死や生の尊厳を軽んじている訳ではありません。表面だけ見て目くじら立てないで欲しい。

さて、ストーリーです。ウルトラマンのパロディってだけじゃやっぱり勘違いされそうだ…。
ハードSFです。人類とはまるきり別個の存在形態を持つ生命体「一族」の「ガ」が、敵である「影」を追って地球にやってくる。そのときまきおこした事故が冒頭の飛行機事故である。この事故で死亡した主人公、諸星隼人(もうこの名前だけで(^_^;))は「ガ」によって体を修復される。そして…。
キリスト教的アーマゲドンが始まってからは、とにかく人が死ぬ死ぬ。人間もどきが跋扈して血が流れ内臓が溢れ腐肉が垂れ肉汁と粘液があとをひく…。
スプラッタ系が苦手な人には正視に耐えないことでしょう。
しかし、そんな場面が続くと陰惨さばかりになりそうなのに、隼人のお間抜けぶりにがくっと力が抜けちゃったりとか、うまい具合にできてるんですよ、これが。
とある書評誌には「科学的に正しいウルトラマン」とありました。ただし「スプラッタ系」とのこと。
覚悟のある方、どうぞご一読を。


(01.8.19)
「ドッグ・ファイト」谷口裕貴 \1,600 徳間書店
第2回日本SF新人賞受賞作。

先週に続いてSFです。
SF読む比率って低いんだけどな、私。なぜかアタリに出会えてます(^_^)。
SFって、普段読まない人にはとっつきにくかったりもしますが。面白い作品も多いから、たまにはどうぞ。

殖民惑星ピジョン。 地球からきた占領軍と、抵抗する住民たちの闘いの物語。
占領軍にはテレパスが指揮する軍用ロボット。対抗できるのは犬と精神を通わせる「犬飼い」だけ。
犬飼いのユスが犬たちと心を通わせるようすがとても感動的。ユスの幼なじみたちも人間らしい。登場人物が生き生きしてます。
敵側もちゃんと描かれてる。あんまり書くとネタばれになっちゃうから、これ以上は言えないけど、とにかく面白い! とくに犬好きにはたまらないんじゃないかなー。
泣けすぎちゃってまずいかも?
これを新人が書いたってのがスゴイ。この作者の次回作が今から楽しみで仕方ない。うーん、わくわくする!


(01.8.26)
「噂」荻原浩 \1,700 講談社

「オロロ畑でつかまえて」「なかよし小鳩組」の荻原浩が、一転、渋谷系ミステリーです。
軽妙な筆致、漂うユーモアはそのままに。
戦慄の最終章にぞっとする。
荻原浩は、もしかしたら元々こーゆーのが書きたかったのかもしれない。と思うのは、それだけ「噂」が面白かったから。

「ニューヨークからきた殺人鬼が渋谷に出現。女の子をさらって足首を切り落とす。でも、ミリエルをつけてる子は大丈夫」
無名のブランドから発売される香水「ミリエル」。販売促進キャンペーンのために流した都市伝説。それなのに、実際に女子高生の足首が切り落とされる事件が起きた。
高一の娘を持つやもめの中年刑事が、渋谷にタムロする少女たちに振り回される姿は、さすがの荻原浩でオモシロ軽い。
一人の人物が視点によってこれだけ変わるのだという残酷さや、警察組織の融通の利かなさや、きっかけひとつで連続殺人犯に変わり得る人間のもろさ…。
やっぱり、荻原浩はうまい。


(2001.9.2)
「三日やったらやめられない」篠田節子 \1,500 幻冬舎
「寄り道ビアホール」         \1,300 朝日新聞社

「女たちのジハード」で直木賞を受賞、「ハルモニア」がTVドラマ化、と、このあたりで有名な篠田節子。
この「お奨め本メール」では、過去「青らむ空のうつろのなかに」を紹介したことがありました。
エッセイも大変面白い。
小説も、「女流」の枠にくくっていいのかと思うくらいに大胆で、実に私好みなのだが、エッセイを読むと更に。 「この人、女か?」 という気になる。
たとえば「三日やったら…」の中の一節。
化粧は肌に悪い、いや必要だ、との意見があるのはどちらが正しいか自分の面の皮を使って実験してみた、とある。18年間すっぴんを通して得た結論は、「誰にでも勧められる実験ではない」。…勧められても、普通の人はやらないと思う。この大雑把さがイイ。

「寄り道…」では、男友達に徒歩20分の距離を「普通歩かない」と言われて「だから腹が出るんだ」とつっこむ。
その男友達(多分鈴木輝一郎だな)がごく自然に年寄りの介護をするのを見て、「男を張るなら介護だ」と言う。「老人や病人を扱うのに慣れれば、はっきり言って、女なんかチョロい」。
当たってるとは思うけど、言い方もうちょっと…(^^;)。
四十代も半ばを過ぎた女性の割りには口が悪いのは、友人たちの影響だろうか? しかしそれが、男らしいと言うか、さっぱりしてて、いいんだなー。


(01.9.9)
「カラフル」森絵都(もり・えと) \1,500 理論社

前世で大きな過ちをおかした魂は、本来なら二度と生まれ変わることができないのだが、抽選にあたったので再挑戦ができる。一定期間、下界の誰かの体で過ごし、前世の記憶を取り戻し、過ちの大きさを自覚した瞬間に、魂は昇天、ぶじ輪廻のサイクルに復帰する。

物語は、死んだ「ぼく」の魂が、「おめでとうございます、抽選にあたりました!」と天使に祝福されるシーンから始まる。
「あなたはみごとその抽選にあたったラッキーソウルです!」
で、「ぼく」は数日前に服毒自殺を図って意識不明の小林真少年の体に入る。
小林真の自殺の原因はいじめだった。
学校に戻った小林真(中学生である)を取り巻く環境、初めての友だち。
休み時間にしゃべる相手がいること。
移動教室に一人で行かなくてすむこと。
そんなことが中学生にとっては一大事なのだ。

二年ほど前の本です。本屋にはもう見当たらないかも。図書館で読んでみてね。
ジャンルとしては児童文学だと思うんだけど、充分に、というか、充分以上に大人の鑑賞に堪えうる本です。


(01.9.16)
「ふわふわの泉」 野尻抱介 \640 ファミ通文庫

ファミ通文庫…書いてて恥ずかしいな。
本屋で棚の前に立つのもちょっと躊躇してしまいそう。30すぎたいい大人が読む本じゃないよな。
ファミ通文庫ってくらいだから、読者対象は10代がターゲットだもん。
表紙がアニメっぽいイラストなのは、電車で読むのに恥ずかしいし。
などと言いつつ、楽しんで読めてしまったのだ。

静岡県浜松市の浜松西高校の化学部部長、浅倉泉。
ある日、クラブ活動の実験中に雷が落ちて、ぐうぜん「ふわふわ」を作り出してしまった。
「ふわふわ」。それはダイヤモンドより硬く、空気よりも軽い。
泉は「ふわふわ」で一儲けして一生楽して暮らしたい、と会社を設立。女子高生社長として一躍脚光を浴びる。
そして「ふわふわ」は世界を変えていく…。

というストーリー。
荒唐無稽です。
現実味ありません。
でも、楽しいの。わくわくするの。
地元企業との折衝のための接待中におっさんたちの理不尽さに突然キレちゃったり、地元住民の抗議行動に対して「あくまで正直に」って誠意を持って対応したり、なんつーか、あたりまえのことなのに(だけど現実の企業ではまず実行できない)新鮮な行動が気持ちいいんだー。
いやいや、青いねえ。いいねえ。

泉はとにかくやりたいようにやる。
世間ではどうだとか、一般にはこうだとか、そんなもの関係ない。
「努力は嫌いだ」と明言しつつ、「努力には二種類ある」とも言う。して楽しい努力と楽しくない努力。もっともだ。
で、ストーリーはこの後、とんでもない展開をするんだよね。
個人的には「霧子ちゃん」いなくても…と思うんだけど、ま、いいか。 (こーゆー「ま、いいか」という考え方が「ふわふわ的」である)
「霧子ちゃん」については説明しません。読んでみてください。


(01.9.23)
「ナイト」 山本甲士 \895 門川春樹事務所(ハルキ・ノベルス)

仰木美沙、31歳。独身。探偵事務所勤務。
従兄が失踪し、4歳の子供、速人が残された。
美沙には小学4年生のときに、4歳だった弟を亡くした過去があった。
トラウマを克服するために、美沙は速人を引き取る。
しかし、従兄の抱えていたトラブルのため、美沙と速人は暴力団に狙われる。
速人を守るために、美沙は暴力団と戦うことを決意する。
美沙の強さが快感! 探偵事務所に勤めているという、特殊事情はあるにしろ、基本的に美沙は普通の女性である。男に比べれば力は弱い。抑えつけられたら逃げられない。カバンに入れた護身具の数々は取り出せなければ意味がない。
初めて暴力団に襲われたとき、縮み上がって反撃どころではなかった。
自己嫌悪で体を震わせながら、美沙は立ち上がった。
基本的に私、強い女が好きなんです。 精神的であれ肉体的であれ。
男も弱いよりは強いほうがいいけどね。まあ、弱い男は母性本能の発達した女性にヨチヨチと慰められてなさい。そうしてスポイルされてりゃよろしい。
女が強いのはかっこいいよねー。肉体的に強いと言っても暴力的というんじゃなくて。
いや、本作はたしかに暴力的でもあるんだけど。チンピラがふるう暴力と違って、考えた上での力の行使ってのが。チンピラは無思慮だからな…。想像力が無いゆえの暴力って恐いよ。抑止力が働かないから。
暴力はきらいだけど、強いのは好きなの。あたりまえのこと言ってますけど。

美沙の容赦ない行動、その源となる速人への愛情。 いいですぅ。


(01.9.30)
「閉じたる男の抱く花は」 図子慧(ずし・けい) \1,700 講談社

タイトルと作者から、「てっきりゲイものかと思った」と、とある書評誌で書かれていたけど、私もそう思いました。
作者の図子慧は、少女小説でデビューした人で、最近オトナものを出してます。
ゲイ頻出。
これがやたらと色っぽい。
今回の作品には、ゲイは出ません。そのかわり、めちゃくちゃ自分勝手で乱暴で残酷で、女を傷つけまくるサイテーな男が出てくるんだけれど、これがセクシーなんだ!

主人公、本荘祈紗(きさ)は、大学の謝恩会の二次会のあと、銃を持った男に会う。
逃げることもかなわず、祈紗はレイプされ、幼いころの父親の暴力を思い出す。
そんな始まりだったにもかかわらず、祈紗は男に惹かれる。
タキと名乗るその男に命令されて出向いた先で会ったもう一人の男、佐宗(さそう)。
こっちの男は、優しい。優しい上に男前だし、金持ちでもあり(華道のある流派の次期家元)、なにより祈紗に惚れ込んでいる。
それなのに祈紗は、佐宗よりもタキに惹かれるのだ。
このあたり、どうにも不可解な心の動きがみごとに描かれています。

図子慧の小説は、読めば読むほど、いいッ! もー、ぞくぞくっとする。
「ラザロ・ラザロ」「イノセント」もぜひ、読んでみてください。


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