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お奨め本メール
2002年1月〜3月


(2002/1/6)
「呼人(よひと)」野沢尚 \1,700 講談社

1985年。呼人は12歳だった。
町外れの森に、友だちと秘密の基地を作り、コーラとお菓子を持ち込む。クラスの女の子にどきどきする。どこにでもあるような夏休み。
水源の最初の一滴を求めて家を出た少女を追って、夏休みの最後の冒険に向かう。呼人と二人の親友は、英雄になりきって誇らしかった。
未来は光り輝いていた。
この年から、呼人の成長が止まった。
成長ホルモンが抑制された云々と大学教授が説明する。 呼人は12歳の外見から変わらない。永遠の子供。

1999年。呼人はまだ12歳だった。
親友の一人は自衛官として北朝鮮へ出向き、仲間をなくし片足を失う。
もう一人の親友はアメリカでデリバティブの仕事をしていた。顧客の財産を無断で処分して損失補てんをしようとし、FBIに逮捕された。
二人からそれぞれに、呼人は実の母親の情報を得る。

2005年。12歳の呼人。
2010年。12歳のままの呼人。
見た目が変わらないだけでなく、呼人は12歳の精神を持ちつづける。
大人になった友人たちの苦しみを見続ける。
子供の実感、大人の理屈。
ずっと続く明日の中で、呼人は未来を見続ける。
混沌の世界。テロの嵐が吹き荒れる。
日本の経済は停滞し、人々は未来に希望を見出せなくなっている。
絶望と諦め。 この世の地獄はすぐそこにある。
呼人は12歳の目で見つめつづける。

2002年最初のお奨め本メール。
新年にふさわしいおめでたい本を選びたかったんだけど、読んだばかりのこの本がどうにもインパクト強くて、動かし難かった。
未来に絶望するか、将来に希望をつなぐか。
求めるのは永遠か刹那か。
愛はどこまで人を縛るのか。それとも開放するのか。

今年も面白い本にたくさん出会えますように。
このメールを読んでくださる皆さんも、ちょっとだけ読書の楽しさを味わってくださいますように。
今年もよろしくお願いします。


(2002/1/13)
「黄金の島」新保裕一 \2,000 講談社

好きなんだよ、新保裕一〜。
「ホワイトアウト」は泣いたわ〜。 「奪取」はスピード感が良かったわ〜。 どっちも興奮して、手に汗握って、読みながら思わず前傾姿勢!
TV化された「奇跡の人」も、初期の「連鎖」「震源」「取引」も、どれも面白い。
とにかくはずれのない作家なんだよね。安定している。

さて、本作。
坂口修司。日本人ヤクザ。組織に疎まれ、追い詰められ、ベトナムに逃げた。
ベトナムには、日々の暮らしに追われながら、日本へ行けば豊かな暮らしが手に入ると信じる若者たちがいた。
ベトナム社会の腐敗。身内に党員がいなければ出世はできない。賄賂が横行する警察。北出身者と南出身者の間の歴然とした差別。
若者たちは、仲間以外に信じるものもなく、虎視眈々とチャンスを窺う。
坂口は、食べるに困るわけでもない温暖な地でうわさに頼って楽園を夢見る若者の甘さに歯ぎしりする。
それぞれに相手に怒り、蔑み、利用しながら、運命は絡まりあい、一つの目的に向かって進み始める。

「女」の使い方が上手い。 男を利用し、保身に立ち働き、心細さに泣き、愛を求め、したたかに生きる女。
奈津も響子も、トゥエイもまた、夢を掴もうとひたすらに生きる。
一番腹が立つのは奈津だが、一番共感できるのもまた、奈津なのだ。強く賢く、弱く愚かだ。
目的があったら、それに向かうしかないじゃないか。その目的もそのための手段も、正しいか間違ってるか、そんなこと分かるものか。
人それぞれ価値観は違う。
自分が信じるとおりにする以外、どうすればいいというのだ? 
目的すらない方が不幸かもしれない。


(2002/1/20)
「肩ごしの恋人」唯川恵 \1,400 マガジンハウス

直木賞、取っちゃいましたね。
ちょうど取る時期だったってことだろうなあ。 と、ちょっと含みのある言い方をしてしまう。
それというのも、この「肩ごしの恋人」、面白いんだけど、直木賞取るほどじゃないなあと思うから。
面白いよ。なんせ、ここで紹介するつもりでいたんだから。読んだばかり。で、紹介文を書いて、次のメールで送ろーっと思っていたら、直木賞。

主人公の二人の女性。るり子と萌。
るり子の三回目の結婚式から話は始まる。
二回の離婚にもめげず、豪勢なピンクのドレスを着てティアラを輝かせる、るり子の三人目の夫は萌の恋人だった男だ。萌はしかし、そんなことで怒ったりしない。幼稚園からの付き合いで、るり子の性格は熟知している。諦めている。呆れ、馬鹿にしつつも許してしまう。
るり子の信条ははっきりしている。
「女は綺麗でセックスがよくて一緒にいて楽しいこと以外、何が必要なの?」
対して萌は英検1級を持ち、輸入代行の会社で主任になってバリバリ働く。
るり子と対極にある萌であるが、愛情テストで「男が自分のために死ぬ」というシチュエーションにうっとりするるり子に呆れながらも「男のために死ぬ」という女よりはマシだな、と考える。

このあとるり子は新婚早々家を出て萌の家に転がり込んだり、萌は会社を辞めちゃったり、まあいろいろあるわけですが、その辺は実際に読んでいただくとして。
どっちのタイプも好きです、私。
女であることを武器にして男に甘えて世渡りするるり子も、自分の才覚で生きていこうとする萌も、自分のことをちゃんとわかっていて、相手に不満をぶつけることがない。自分の求めるものがわかっていて目的のために生きるという点で二人は共通している。

ラストがねえ。あんたたち、そんなんで本当に生活していけるの? 甘くない? っていうのがあって。
そこが不満なんだよー。その不満があるんで、いきなりこの本の評価が下がるんだー。
それ以外は、満足なんだけどね。全体としては面白い。読みやすいし。
しかし直木賞・・・?


(2002/1/27)
「夏の滴」桐生祐狩(きりゅう・ゆかり) \1,500 角川書店

第8回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作。
これ、めちゃくちゃ面白い。
ストーリーを紹介してしまいたいけどそういうわけにも行かないし〜。

主人公は小学四年生の男の子。串焼き屋を経営する母親と二人暮しの藤山真介。
クラスメイトの、太ももの途中から下の足がない車椅子の徳田を、クラスみんなで特別扱いすることなく仲間として付き合う中で、八重垣という女子をバイキン呼ばわりして殴る蹴るのイジメをする。そのイジメのようすがいかにもあたりまえのように描かれてるのがすごい。
小学生特有の、残酷さと無邪気さが同居する心情をみごとに描いています・・・なんて言葉じゃ説明できない。
そして舞台が地方都市(山の中のN県・・・まあ、わかりますね)であるが、その町の描写がまた・・・容赦ない。

ある日突然、友達の一家がいなくなる。行方を捜す真介たちの前に、次々と謎が現れる。謎の人物が現れ、得体の知れない占いがはやり・・・。
不安が子供の胸を苦しめ、興奮が高揚を呼ぶ。そして真実が絶望を・・・。

帯の惹句は 「鬼畜でグロテスク、邪悪でインモラル。こんな世界を描いて、これほどみずみずしく切ない小説があっただろうか?」
ラスト一行まで気を抜けません。
すごく読みやすいこなれた文章で、実はぞっとすることをさらりと書いてる。
この作者の次の本を早く読みたいな。


(2002/2/3)
「青空のルーレット」辻内智貴(つじうち・ともき) \1,400 筑摩書房

ビルの窓拭きをする若者たち。
気楽な稼業、呑気な商売。ときどき危険、死んだ奴アリ。
太陽の下で休憩して、馬鹿な話をして、休みにはバンドをやる奴、マンガを描く奴、芝居をやる奴・・・。
ストーリーよりも、文章がいい。
のびのびと、肩の力が抜けた軽くてすこーんと抜けた感じの文章。
ストーリーは、青いです。キレイゴトです。
でも、「人間は、夢を見るから人間なんだ。夢を叶える事よりも、夢を見る事で、人間は人間になれるんだっ」 そういう気持ちを持つことのできる時間って、大切だと思うの。

2000年の太宰治賞受賞作である「多輝子ちゃん」と二作入った作品集。
「多輝子ちゃん」は、まだちょっと力はいってますね。なんか難しいこと言わなくちゃ。って、言わずといいようなこと書いてる。
それに比べると「青空のルーレット」いいですね。
だいたい、若者が体を使って仕事してる様子、しかもそれを苦労だと思わない様子、お気楽な様子、そういうの好きなんだ。
秋山鉄の「居酒屋野郎ナニワブシ」「ボルトブルース」も、だから好きなんだ。
そういえば秋山鉄は紹介したことなかったっけ。「ボルトブルース」は自動車工場のライン工の話、「居酒屋野郎・・・」はそのまんま居酒屋の話。めっちゃ面白いです。

こういう本を読んじゃうと、窓拭きの仕事がしたいと本気で考えてしまう自分が恐い(^^;)。ライン工の仕事もしてみたい。
なにごとも経験よ、経験。若いうちにやっとくべきだったかなー。


(2002/2/10)
「ルー=ガルー 忌避すべき狼」京極夏彦 \1,800 徳間書店

半年おくれでようやく読みましたー。 これはストーリーよりも設定が興味深い。
その設定は、インターネット及び雑誌で読者から募集したもの。もちろん京極が練り直して味付けし直したものではあろうが。

舞台は近未来。多分2030年くらいであろう。
主要な登場人物の一人、刑事の橡(くぬぎ)が40半ばで、2000年ごろに少年期を過ごしているらしいから。
子供たちは学校に通うことなく、自宅でモニタを相手に学習する。
週に一度、コミュニケーション研修という名の授業に出席し、それがクラスのメンバと顔を合わせる数少ない機会となる。直接会うことはリアルアクセスと呼ばれ、モニタ上の対面と区別される。
彼らにとってリアルアクセスは珍しい経験なのだ。

少女たちの会話の中で、鳩を食べると言う話題が出たとき。
生きている動物を殺して解体するという行為に絶句している葉月に、美緒がこともなげに言う。
「ドーブツ好きだろ。好きなら食べられるだろ」
シュール。
この会話の背後に、食料は全て無生物から合成されている社会がある。
獣を殺さない人間。食物連鎖から解放された人間。
と言う社会において、連続殺人事件に巻き込まれた少女たちと、カウンセラの不破、落ちこぼれ刑事の橡、県警のエリート石田が繰り広げる物語。

ストーリーは多分にアニメチック。髪を伸ばしちゃらちゃらした格好を好む葉月(見た目の話。内実はそうでもない。一番平均的で現代でもありがちな少女であろう)、ベリーショートの髪で着飾らずクールな歩未。天才の美緒、無国籍の麗猫。喪服を着る雛子、ピンクのコンタクトの矢部。
描写が鮮やか。
表紙のイラストと相まって、たいそうヴィジュアル的。
対して大人の部分はどうしても、理屈担当になる分だけ華やかさに欠けて、急にモノクロになる感じ。

不破と橡の会話の中で、「なぜ人を殺してはいけないか」の部分が秀逸。


(2002/2/17)
「活字狂想曲」倉阪鬼一郎 \1,600 時事通信社

サブタイトルは「怪奇作家の長すぎた会社の日々」。
ホラー作家(自称日本で唯一の怪奇作家)である作者は、長く校正の仕事をしておりました。タイトルの「活字」とは、読書全般を示す単語ではなく、純粋にそのまんまの意味の「活字」であります。
抱腹絶倒。
後から回想して書いた本ではなく、勤めの傍ら同人誌に連載していた文章をまとめたもの。なので記憶の粉飾に色付けされることもなく、その時どきの感情が素直に出てますね。多分。
校正といっても、小説の校正ではなく、印刷物の校正が主。
つまり、広告であるとかカレンダーであるとか。
故に活字文化を支える等といった過剰な自意識はてんで無い。ただしこれらの印刷物はその分、金銭に直接かかわってくる。広告の金額間違えたりしたら大変なわけだ。
倉阪は、通常ひとが見逃しそうな細かい点までチェックするかと思えばなんでこんなものを? と思うような大々的な間違いを見逃すというような大ボケかましたりする。
あー分かるような気がするわー。そーゆー人っぽいわー。
どーゆー人かというと、それは本書を読んでもらうのが一番。

ところで、私はこの作者の本はこれが2冊目。
1冊目は「首のない鳥」というホラーだったのだけど、その主人公(女性)が校正者でした。
ダブるんだよ〜。
間違いなく自分の体験をもとに書いてるね。
これのコピーは「ジェット・コースター・ホラー」。うん、たしかに。
勢いよくストーリーが展開して、ラストはここまでやるかーってくらいに大風呂敷ひろげて、好きなタイプの小説でした。ま、大小の瑕疵はありますが。
主人公・怜子のキャラが良かった。
精神状態の危うさがうまく描けていて、よくあるホラー映画の「なんでこの場面でわざわざ危険に飛び込むのよ、アンタ!」みたいな苛立ちはうまく回避できてます。

合わせて読むと二度おいしい。かも。


(2002/2/24)
「医者 井戸を掘る」中村 哲 \1,800 石風社
副題:アフガン旱魃との闘い

帯のコピーから。 「大旱魃にあえぐ瀕死のアフガンで診療所を作り井戸を掘る。『とにかく生きておれ! 病気は後で治す』 パキスタン・アフガニスタンで十七年間診療を続ける医師が、日本の青年たちとともに、アフガン人七百人を指揮して、千の井戸を掘る」

中村哲はPMS(ペシャワール会医療サービス)の現地代表である。
飢えと渇きに苦しむ人々を救うために、診療所を開き、井戸を掘る。
未曾有の大旱魃で井戸が枯れ、川も泉も消えて大地がひび割れたアフガニスタン。毎日半日かけて水を運ぶ女性たち。その水すら枯れて、やむなく離村し難民化する人々。
本書は2000年6月から始まったアフガニスタン大旱魃に対するPMSの活動の記録である。

アフガニスタンといえばタリバン。
タリバンといえば民衆を抑圧しテロを起こす極悪非道な集団であるかのように我々は洗脳されている。
けれど、欧米諸国がタリバン政権を徒に閉鎖的だの非民主的だのと攻撃し続け国際援助を拒む先に、苦しむ民衆の姿があることを知らねばならない。
この頃はタリバンも国際社会の承認を求めていたし、内戦にあえぐ農村に秩序をもたらし、つかの間とはいえ平和を与えたのは確かである。
タリバンのテロは非難されねばならない。彼らはしてはならないことをした。けれど、タリバンがそこまで態度を硬化させたのは、欧米諸国による「国際社会のイジメ」が原因であることも確かなのだ。
原因がなんであれ、確かにタリバンのテロは間違っている。私はテロを正当化する気はない。
けれど、テロ以前、アフガンの地で人々が飢えに苦しみ病に倒れているにもかかわらず、国際制裁の名に食糧援助がろくに行われない中、反タリバン勢力に対する武器援助だけは比較にならないほど与えられていたことを反省する声はない。
タリバン政権下の女性の地位が低いとヒステリックに騒ぎ立て、ごく一部の西欧化した上流階級の女性の亡命を助けた米国は、水を求めて半日歩く農村の女性の声には耳を傾けない。
胸をはだける権利も、そりゃないよりはあったほうがいいだろう。
プライバシーを守る権利も必要だ。
しかし、何よりも必要なのは、「生きる権利」なのだ。
生きること。
その当たり前のことが、闘いの中でしか得られない人々を、救うことすらできないで、なにがNGOだ。ODAだ。
まともに水が出ない井戸、半年も持たずに枯れる井戸。
その外観だけは立派で、NGO組織の名が麗々しく刻まれている。PMSがその枯れた井戸を再生させ、その際看板を損傷したとき、そのNGOは自分たちの仕事の不完全さには触れず、直してもらった礼も言わず、看板を壊された苦情のみを言う。彼らにとって看板だけが大切なのだ。実際に使えるかどうか、それによって人々が助かるかどうかよりも、「我々はこれだけの実績を残しました」という数字だけが必要なのだ。
PMSはその資金を日本での寄付に頼っている。
国連指定のNGOとは、資金がひも付きでない点が大きく違う。
資金が国連から出れば、独自性は消える。動きは制限され、報告書ばかりが増える。小回りが効かず、杓子定規となる。
例えば本書の巻末に「現地活動報告書」がある。これを見ると、如何に通常のNGOが無駄に時間をかけるかよく分かる。
PMSが3日で済ませる調査に普通4ヶ月かけるというのだ。これでは今現在水を求めて切実に訴える村人を救うのに間に合わない。

人々は日々闘っている。
旱魃との闘い。病との闘い。内戦との闘い。
PMSは彼らを救うために闘う。


(2002/3/3)
「淑女の休日」柴田よしき \1,800 実業之日本社

女性に人気のシティホテルで幽霊騒ぎが。
集客に影響が出ると懸念した上層部が、私立探偵に調査を依頼する。依頼された探偵が調査を開始したとたん、幽霊の目撃者が殺される。

幽霊騒ぎで集客に影響出るかなあ。
これが迷信深いお年より相手の商売だったらそういうこともあるだろうけど、若い女性って、そういうの怖がらないじゃない? むしろ喜ぶんじゃないかと思うんだけど。セールスポイントになりそうだ。
幽霊が宿泊客に危害を与えるとかだったらまずいけど。この本の中の幽霊はそういう騒ぎにはなってないのよね。
というわけで、設定からしてわざとらしかったです。

登場人物がまた。探偵の美生と、刑事の沙藤。柴田よしきの好きそうなキャラだよな〜。
がさつで、女の子っぽさが苦手で、ストッキングなんて何年も穿いたことないっていう美生。
キャリアでやりてで、だけど新米なのをいいことにそらっとぼけて無邪気な顔で好きなように捜査する沙藤。
とかなんとか、いちゃもんつけてますが、面白いです。
難しいこと考えずに深読みせずに読めば面白いです。
事件の裏を読もうとか、人間関係を読み解こうとか、そういうことを考えなければ面白いです。
シティホテルに惹かれる女性たちの心理も描けてると思うし。

非日常への憧れ。
奉仕される歓び。
金銭による代価との引換にでも、つかの間の女王気分。
淑女の気分。
――――――――――――――――――――
番外。
「餃子ロード」甲斐大策(かい・だいさく) \1,800 石風社

先週紹介した「医者井戸を掘る」と同じ出版社。
んなこと知らずに借りたんだけどね。
図書館でなんとなく手にとった本。読んでるうちに、あれ、アフガンだなあと思ったら、石風社だった。こうやって本が私を呼ぶ。

そして何よりも衝撃を受けたのが、終盤近く。
友人の老涼という青年を描写するシーンで、
「顔も立ち姿も香港の人気歌手・張学友と生き写しの老涼には、張と間違えて寄ってくる娘たちもいる」
という文章が〜〜〜〜〜!!!
學友の名前をこんなところで目にしようとは〜〜〜!  ただそれだけのことで、この本がいとおしくて仕方が無い私なのでありました。ちゃんちゃん。
(解説:張學友というのは、私が気も狂わんばかりに夢中な香港の歌手であります(*^_^*))


(2002/3/10)
「超・殺人事件 ―推理作家の苦悩―」東野圭吾 \1,400 新潮社(新潮エンターテインメント倶楽部SS)

抱腹絶倒。
東野圭吾って本当に好き。
シリアスからお笑いまで、器用に書き分けてどれもこれも面白いんだもん。
本書は副題にあるとおり、どれも推理小説、推理作家をパロってます。
短編集。
こういうパロディは、バランス感覚がよくないとできない。バランスの悪いパロディはただの内輪受け、傍から見ると見苦しい。(例・島田荘司の御手洗シリーズ)

例えば最近流行りの長編化。
しかも上下巻に分けない。弁当箱のような本がなぜだか流行っている。これをパロったのが「超長編小説殺人事件」。タイトル、そのまんまですね。

本当の本好きなどいない、彼らが求めているのは本を読んだという実績だけだ。本の実態が消えつつある中、本を取り巻く幻影だけがにぎやかだ。とシビアな一文で終わるのが「超読書機械殺人事件」。
ショヒョックスという自動書評マシンが出てくる。大笑いなだけに怖い。
――――――――――――――――――――
半村良 追悼

3月4日、半村良が逝去しました。
私は高校時代、半村良のファンでした。
当時、ジュブナイルでないSFが新鮮で、しかも政治やら経済やらが絶妙に組み込まれているのが、まるで自分が大人の小説を読んでいるかのようで、興奮したものです。
では、その半村良から、特にお気に入りを紹介。

「石の血脈」
昭和46年出版という大変古い作品ながら、今でも再読に耐えるという名作。
今では珍しくない古代の謎、伝説が融合したSFで、当時としては画期的であった由。セクシー・シーンも山盛り。私が初めて読んだのは多分、高校を卒業したかしないかという頃だったように記憶している。
「闇の中の系図」「闇の中の黄金」「闇の中の哄笑」の闇の中シリーズ
古代より日本を支えてきたのは「嘘部」と呼ばれる一族だった。
半村良お得意の伝説モノ。「嘘部」の語る荒唐無稽な作り事が陰で政治を動かす。

最近はすっかり遠ざかっていたけれど、まだ若い私に読書の楽しみを教えてくれた、恩人とも言える存在であった半村良に、合掌。


(2002/3/17)
「アラビアの夜の種族」古川日出男 \2,700 角川書店

「13」「沈黙」と、文章の超絶美麗さで私を虜にした古川日出男。
この人、文章はとにかく絶品! 
初めて「13」を読んだとき、その表現力に圧倒されました。
色彩をテーマにした作品で、めくるめく万華鏡のごとき色彩のヴェールが目の前で揺らいでいるかのような、言葉でここまで色彩を喚起できるのかと、感心するのを通り越して呆然とするほどでした。
「沈黙」は音をテーマにしていて、これも文章だけで呼び起こされるにはあまりに生々しい音楽、いや、リズム、音そのもの…私の乏しい語彙では表現することは
適わない。
とにかく寡作ながら非常に印象深い作家で、文章力だけ取ったら本邦随一ではないかとひそかに私は思っているわけです。
文章ばかり取りあげているのは、そう、ストーリーは今イチだからです(^^;)。
いや、標準的なレベルは充分超えてるとは思うんだな。ただ、あまりに文章が素晴らしすぎるもんだから、ついついそれに見合ったストーリー展開とか期待しちゃって。そうすっと、案外にお決まりっぽい終わり方に肩透かしを食らったりするわけだ。

さて、本書。
今回のテーマは「物語」あるいは「本」。
舞台はナポレオンの侵攻を控えたエジプト。語り部が語る「物語」。
これこそ、古川日出男の本領発揮ではないですか。
語ること。言葉の魔術師の尊称を私は古川日出男に贈りたい。
だから、この本は、図書館で借りてはいけない。←自戒を込めて。
期限に追われて、慌ててページを繰ってはいけない。 文章の一行一行、単語のひとつひとつに耽溺し、たっぷりと時間をかけて楽しまなくてはいけない。
ストーリーだけを追って読むなんてもってのほかだ。失敗したわ、私! 
速読をもってする私にして、ほぼ一週間かかりました。これも相当もったいない読み方して。
最低でも2週間以上かけて読むのが望ましいと思われます。毎日、少しずつ。
語り部が一晩に語る物語の量と同じゅうして。


(2002/3/24)
「パラノイアに憑かれた人々 上下」ロナルド・シーゲル 上\1,600 下\1,800 草思社

上「ヒトラーの脳との対話」
下「蟲の群れが襲ってくる」

パラノイア。
妄想症、偏執病と訳される。
パラノイアという病気にはなじみが無くても、妄想という言葉自体は日常でも比較的よく使われる言葉ではないだろうか。
私なんかはしょっちゅうモウソウにふけってにへらにへらと笑っていたりする。危ない。

作者は、カリフォルニア大学精神医学行動化学科准教授で、法精神薬理学の専門家として多くの刑事事件の鑑定証人を務めている。
が、科学者然とした堅苦しいイメージは無く、著者近影の写真を見ても、いかにもカリフォルニアの軽いにーちゃんという感じ。訳者は「うさんくさいオヤジ」と書いている。
この人、何がすごいって、最終話第11話「パラノイア急行」では、寝台列車で自分の姉を殺したパラノイド(パラノイア患者のこと)の追体験をするため、犯人と同じように大量のコカインを摂取し、寝台でズボンをはいたまま放尿までしている。
普通、できない。ここまで。

この本には、作者が出会ったさまざまなパラノイドたちが登場する。
自分専用の人工衛星で常に監視されていると思いこんでいる科学者。
自分の歯が囁きかけてくると訴える老婆。
アルバイト先の同僚が自分に恋をしていると思いこむ美貌のバレリーナ。
体の中に蟲が入り込んでくると言う男。
自分を神だと思いこんでいる失業者。
小人の襲撃に備える麻薬の売人。
彼らは皆、それらの経験を事実だと信じている。
本当に自分専用の人工衛星があると思っている。FBIやらCIAやらが、隣人や職場の同僚や、あるいは家族親戚まで巻き込んで、自分を監視し、陥れようとしていると、彼らには「わかって」いる。

「わかって」いる。この単語、頻出。
彼らにはわかっている。証拠だってある。例えば彼らの視線。くすくす笑い。新聞に載っているひとつの単語。窓の外を飛ぶ小鳥も、突然落ちてきた街路樹の葉も、全てが自分の考えを裏付けている! これは神の啓示だ!

まぁ、なんというか、興味深い本ではありました。
面白いかと聞かれたら…疲れる本だとしか答えられないけど。


(2002/3/31)
「都立 水商(おみずしょう)!」室積 光(むろづみ・ひかる) \1,300 小学館

前代未聞、水商売の専門高校が設立された! 
「ホステス科」「ソープ科」「ヘルス科」「ホスト科」「マネージャー科」「バーテン科」「ゲイバー科」の七学科で発足。

という設定で始まるこの小説、笑えます。痛快です。
先生はみんな熱心で生徒思いで、生徒はみんな生き生きとして、読んでて清々しいことったら。これはある意味、おとぎ話だね。

数学の教師は、ホステスの時給と席数とテーブルチャージの額の健全な関係を数式で説明する。
国語の教師は、正しい敬語の使い方とともに、出身地のわかるイントネーションのリストを作った。
歴史の教師は、歴史上のゲイの人物の物語を追い、娼婦の姿を説明する。音楽の授業はカラオケで演歌。
「ソープ科」「ヘルス科」の校外実習で、破格の安値でサービスしてくれるため、街の援助交際の相場が崩れ、女子高生の売春が無くなったってくだりは、ちょっと納得しちゃったな。
柔道部員は活躍するし、野球部は甲子園で優勝しちゃうし、いいこと尽くしで、読んでてカイカン♪ 

野球部の活躍がまた、いいんだよー。スポコンなんて言葉とは無縁の、スポーツを楽しむ姿が私の好みだ。
高野連のくだらなさを一刀両断。全国の高校野球礼賛主義者たちに読ませてやりたいね。

水商創立から10年間を教師の目から振り返るってストーリーになってるけど、まぁストーリーに関しては有って無きが如し。
しかし最高ですわ。最近のヒットだわー。

ただし、水商売全般(風俗含む)に拒否反応を示す方は読まないでね(^^;)。


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