お奨め本メール
2002年4月〜6月
(2002/4/7)
「今池電波聖ゴミマリア」町井登志夫 \1,900 角川春樹事務所
第2回小松左京賞受賞作品
タイトルからお分かりのように、舞台は今池。
なんてローカルなんだ。名古屋人でなきゃこの地名の意味は分からんぞ。いや、分かっても意味ないんだけど。
意味はないけど、今池のタイトルに引かれて読んだ私。
思ってた以上に面白かった! 一晩で一気読み! 残業続きで疲れてるのに〜。夜更かししたくないのに〜。とか言いながら。
西暦2025年。日本経済は破綻し、ゴミ回収は有料となり、不法投棄が当然となり、町にはゴミがあふれている。
年金は打ち切られ、老人はホームレスとなる。出生率は低下し、数少ない子どもたちは甘やかされ増大する。
その一方で妊娠した女性は躊躇なく中絶し、その胎児を闇で売る。胎児はリサイクルできる最高の商品だ。
森本聖畝は反射神経がいいだけの平凡な高校生。その連れである白石はゴリラのごとく巨体で粗暴。
聖畝は白石の金魚の糞のようにくっついていることで、高校で無事に生きていける。
何の庇護もない一般生徒は、校内にいくつかある組織から上納金を搾り取られるだけだ。日々暴力に怯えながら。
そんなある日、白石が風俗の女に夢中になる。
女の名はマリア。マリアに通うため、白石は聖畝を引き連れて強盗に及ぶ。強盗に入った先は、為替ディーラーの家。
この時代、ディーラーは多くが10代の少年少女。
今回の強盗のターゲットも16歳。真紀という名の少女。
出来心で真紀のディスクも盗んだ聖畝は、真紀とともに電磁波の謎に挑むことになる。
そして現れる国家の陰謀。
日本経済から情報化社会のひずみに少子化問題といった社会問題ネタを織り込みつつ、友情について考察したり。スクールものだったのね。
ネタの多くは、目新しくはない上に、2025年という設定にしては甘すぎたりして、ストーリーは実はちょっと今イチだったりする。
しかし、なんと言うか、パワーがあるのだな。勢いがある。勢いで読まされてしまう。
(2002/4/14)
「今昔続百鬼 雲」京極夏彦 \1,150 講談社ノベルズ
副題:多々良先生行状記
京極夏彦も、一時期夢中で読み漁って、新刊がでると一日でも早く読みたいと本屋に走ったものだが。
最近はちょっと飽きがきたのか、全然新刊チェックしなくなってしまったな。それどころか、図書館でも予約もしなくなって、偶然棚にあったら借りる程度にまでなってしまった。
なのだけど、久しぶりに読むとやっぱ面白いですわ。
「岸崖小僧」「泥田坊」「手の目」「古庫裏婆」の4編収録の短編集。
ラストの「古庫裏婆」は京極堂が友情出演。
妖怪がらみの事件に次々巻き込まれる在野の妖怪研究家の多々良勝五郎センセイと沼上蓮次くんの珍道中。
妖怪がらみとは言っても、それは妖怪好きの二人の目から見るからなのよね。
京極夏彦らしく、ちゃんと論理的な解決がついてます。
二人の噛み合わない会話が絶妙だわ。
多々良センセイの妖怪馬鹿ぶりは、天衣無縫といえば聞こえはいいけど、結局のところわがまま身勝手非常識。
振り回されて迷惑ばかり蒙っている常識人間の沼上くん。
けど、沼上くんも負けずに妖怪馬鹿ではあるのよねえ。朝まで妖怪論議を繰り広げられるなんて、普通の人間にはできないよ。
榎木津さまが出演しないのは残念だけど、京極夏彦にしては笑える小説でございました。
あ、でもけっこう人がぼろぼろ死んでるんだった。笑えるなんて言っちゃいけないかな。
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ところで。
以前紹介したことのある、石田衣良「波のうえの魔術師」がドラマ化されましたね。
「ビッグ・マネー!」、私は見る気しないけど(^^;)、面白いドラマになるといいなあ。
石田衣良は「池袋ウエストゲートパーク」とか、ドラマと相性がいいみたいだ。ドラマを見た若い子のうちの何人かでも、原作を読んでくれるといいのだけど。
(2002/4/21)
「都市動物たちの逆襲」小原秀雄 \1,600 東京書籍
タイトルを書き出してみましょう。
巨大ネズミ現る/毒にも負けないスーパーラットの誕生/都会の夕闇を舞うバンパイヤ/都会の熱気がコウモリを育む/清潔志向の裏で逆襲に転じたシラミ/都市化が阻むゴキブリ駆除/都会の新顔スズメバチの脅威/庭木に潜む刺客チャドクガ/死に至る!ツツガムシ病が復活/獰猛化する東京のカラス/給餌の増加が人間を襲う/ユリカモメの都心部進出/平和のシンボル・ドバトの糞害/アライグマが媒介する感染症の恐ろしさ/他
これらのタイトルで私はそそられる。皆さんはいかが?
この中で面白かったのは、「給餌の増加が人間を襲う」のくだりかな。
人間から餌をもらうことに慣れたカラスは、もらうのを当然と考えるようになって、餌をくれない人間=悪いやつ、の図式で人間を襲うようになるという。
餌をやる人間は、動物愛護のつもりかもしれないけれど、そのせいで襲われる人間はたまったものじゃない。
また、そうなると当然カラスへの風当たりは強くなるワケで、結果として愛護どころか虐待になっている。
あと、ユリカモメ。
カラスを毛嫌いする人は多いが、ユリカモメは多くの人に愛されている。
白=清純という単純極まりない図式。カラスを笑えないな。
もともと渡り鳥で、日本には冬だけ飛来する鳥であったはずが、今では一年中生息しているという。
その理由の一つが、パンまきおじさん&おばさん。せっせとユリカモメに餌を与えて、生態系に影響を与えている自覚なんてないんだよな、こーゆー人は。
こういう都市動物ネタも好きなネタである。
好きなネタって言うのは、都市動物が好きなわけじゃないのよ。基本的に動物はたいてい嫌い…。哺乳類と爬虫類は比較的好きだが、鳥類、両生類、魚類は嫌い。その他、脊椎のない動物は一切、死ぬほど嫌い。昆虫とかね。
しかし文章が今イチだった。プロの文筆家じゃないんだから、仕方ないか。
まとめ方でもっと面白くなるのになあってもったいながりながら読みました。
(2002/4/28)
「サイト」倉阪鬼一郎 \1,600 徳間書店
なんちゅーか、読んでて全然楽しくないんだけど、どうにも気になる作家ってのがいて、倉阪鬼一郎もそのひとり。
こーいうのも、お気に入りって言うんでしょうか。
「活字狂想曲」は面白かったけど、その他は、怪奇小説なだけに陰陰鬱鬱。なんだけど、つい借りちゃったりするんだな〜。←さすがに買わない。
主人公は、売れない作家である辺見啓三。
書き下ろしの長編小説の執筆をはじめた頃から、生来の弱視で、失われたままだった右目の視力が突然蘇った。
と同時に、彼の周りで奇妙なシンクロニシティが頻出する。
想像の産物であるはずの名前が病院の待合室で呼ばれる。
蕎麦屋で食を済ませて帰ると、蕎麦屋への間違い電話がかかっている。
俳句に関するエッセイを書いた後、自分のファンが運営してくれているホームページのBBSを覗くと、ちょうど俳句について、ほぼ同じ内容の書き込みがある…。
シンクロニシティは加速する。
夢が現実に滲み寄る。
右目の視力が回復するに従い、左右の目に見える世界の違いが啓示をもたらす。
膜を張ったごとく薄れゆく現実感。忍び寄る狂気。バランスひとつで簡単に陥ってしまいそうな闇がすぐそこにある。
次第に狂気に侵されていく樣は、倉阪の真骨頂という感じでしょうか。
辺見はこの後、現実を第一世界、自分を第三世界に選ばれたものと認識し、猟奇殺人に走る。
このあたりの描写がたいへん恐い。完全に狂気の世界。サイコです。(シャレに非ず)
そしてひとり辺見の狂気に終わらず、誰かの悪夢となって甦る。
(2002/5/5)
「国境」黒川博行 \1,900 講談社
97年3月発行の「疫病神」の続編です。
「疫病神」もたいへん面白かった。
主人公は建設コンサルタント業を営む二宮啓之。
ま、コンサルタントと言っても、というか、コンサルタントという名のとおり、というか、まともとは言いがたい稼業をしてるわけですね。
その二宮にとっての疫病神、それが桑原。
桑原はモロに筋モノ。金バッジをつける幹部ながら、一匹狼的な独断専行、暴力大好き、組内ではややもてあまし気味。
二宮は「疫病神」では産廃がらみで死ぬ目にあった。
今回は北朝鮮でえらい目にあう。
あるとき、二宮は北朝鮮への重機の輸出を仲介する。で、まんまといっぱい食わされた。
二宮自身は損害はなかったが、仲介相手の重機会社が黙っていない。
桑原の組も、別件で同じ男に詐欺の被害にあっていた。
だました男を追って、二宮と桑原は北朝鮮へ飛ぶ。
平壌では二宮が安全員という名の警察のようなものに取り押さえられ、桑原はゴロツキ(北朝鮮にも不良グループがあるらしい)と殴り合いする。
挙句、目当ての男は見つけられず、まともなルートでは埒があかぬと、ついに二人は中国から密入国することに。
えらくリアル。
北朝鮮ってこうなんだろうなあ。
北朝鮮がらみのいろんな本を読んだけど、読めば読むほど、あのパーマデブ(誰のことか分かるね)をシメたくなる。
カーストも真っ青の身分差別制度。
出発から間違っている経済政策。餓えているのは罪のない民衆。肥え太る幹部。横行する賄賂。救いのない未来。
しかし暗くばかりはならない。
全編を通してセリフが大阪弁だからだろうか。いいねー、大阪弁。読んでる間&読んだ後、思考が大阪弁になってますわ。どないしましょ。
桑原のはちゃめちゃぶりが痛快!
当事者でなければ胸がスカッとしますわね。二宮はかわいそうだけど。
しかしその二宮も、充分したたか。
腐れ縁の二人、名コンビですわ。
是非、「疫病神」「国境」と順にお読みください。
(2002/5/12)
「エヴァが目ざめるとき」ピーター・ディッキンソン \1,456 徳間書店
GWで図書館が休みなのに自分は読書時間がいつも以上に取れてしまう。
図書館で借りてきた本が尽きてしまって、蔵書を再読。
94年の本で、初めて読んだのは95年。
児童文学です。
野生動物のほとんどが絶滅した近未来。事故に遭い意識不明の重傷を負った13歳の少女、エヴァ。
目覚めたとき、彼女の意識は、それまでの自分の身体ではなく、チンパンジーに移植されていた。
チンパンジーとして目覚めたエヴァが、自意識や本能と折り合いをつけながら、自分の生きる道を模索する姿を描く。
エヴァが選んだ道とは…?
児童文学とはいえ、大人が読んでも充分に衝撃的。
本屋には間違いなく置いてない。興味のある方は図書館で捜してみてください。
ところどころ、表現が古い部分もあるにはある。例えばチンパンジーの喉では話すことができないエヴァが、合成音声で会話をする。その言葉をテープに吹き込む…テープはないだろう、ディスクだろう。というような、細かいところとかね。
大局には影響なし。
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番外
「怪笑小説」東野圭吾 \1,553 集英社
これも再読。
短編集です。
「おっかけバアさん」が良かった。
前に読んだときも面白かったが、そのときは他人事の面白さ。今は身につまされる笑いですな。
一人暮らしで、年金を頼りにつましい生活をするけちけちバアさんが、ある日突然「杉サマ」にハマってしまう。公演チケット代に洋服代にプレゼントに、おっかけのための交通費。他人から見たら正気の沙汰じゃないんだけど、本人もわかってるんだけど、止まらない。
…わかるわ、その気持ち!
わかってどうするんだよ、こんなもん(^^;)。
(2002/5/19)
「ベルゼブブ」田中啓文 \1,143 徳間ノベルズ
「ベルゼブブ」とは「蝿の王」の意味。
閉じられていたパンドラの函が開いて、蟲の神が甦る。
昆虫学者の両親に虫の名をつけられた女子高生の瀬美(せみ)。両親は既に亡く、叔母に引き取られている。
3ヶ月恋人と会えない日々が続き、夜毎の淫夢に悩まされる。
そして体調不良で訪れた病院で妊娠2ヶ月を告げられる。
処女懐胎ではない。しかし計算が合わない。他に心当たりはない。
悩む瀬美を「マリア」と呼ぶ謎の老人。
怪しい言動が増えた恋人。
血の儀式を執り行うカルト教団。
次第に広がる蟲の侵略。
世界は少しずつ崩れていく。
そしてついにベルゼブブが目覚める日が…。
いかにもホラーです。ただしくホラーです。なのに要所要所で駄じゃれ飛ばすのは田中啓文である以上仕方がないことなのでしょうか。
分かってるのに読まずにいられない私も病気だわー。
「蝿の王」ってきけばゴールディングを連想しないではいられない。
しかし当然のことながらこれっぽっちも関係ありません。
エピローグが蛇足だと思うのだがどうだろう。
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番外
「武打星」今野敏 \1,700 毎日新聞社
武打星とは香港映画界におけるアクションスターのこと。
古くはブルース・リー、その後ジャッキー・チェン、今はチャウ・シンチーいやこれはコメディ・スターか。
ブルース・リーに魅せられた、空手一筋の日本人青年が、武打星を目指して単身香港に渡る。
香港の街を舞台に繰り広げられるアクション・ノベル。というストーリー。
正直言って、ストーリー甘すぎで、小説としては今イチかも知れん。
しかし香港映画界が舞台だと思ったら読みたくなるじゃないですか。ま、そんだけのことですが。すみません。お奨め本じゃないです。話題にしたかっただけなのー。
(2002/5/26)
「キャピタル ダンス」井上尚登 \1,700 角川書店
「T・R・Y」「C・H・E」を書いた井上尚登。
「T・R・Y」は横溝正史賞を受賞したデビュー作。
明治時代末期の日本―上海を舞台にしたコン・ゲーム小説。どこまで史実でどこからフィクションか。革命家の血が騒ぐ、時代の色濃い秀作です。
「C・H・E」はチェ・ゲバラのチェ。キューバの革命家ゲバラは、「チェ(やあ、君)」と言うのが口癖で、それが愛称となった。現代のキューバを舞台に、日本からはみ出した男たち女たちが動く。
結局、こういう連中が、これからの日本を変えていくのかもしれない。自分ではそれと知らずに。
革命ネタが2作続いて、次は何かなと思ったら、最新作「キャピタルダンス」は意外にもベンチャーネタ。しかもこれがめちゃ面白い!
ドッグイヤーと言う言葉がある。
犬が人間の七倍の速さで歳をとるように、インターネットの世界では技術革新が犬の時間で過ぎていく。
ベンチャービジネスも「犬の時間」で動いている。みな、七倍の速度で走らねばならない。
走りつづけろ。立ち止まったとき、ビジネスは終わる。
めまぐるしく変わる技術、経済、社会の流行り廃り。ネットバブル。もてはやされ、手のひらを返すように資金を引き上げられ…。
アメリカでは、失敗したものは学習するといわれる。
しかし日本では、失敗者に二度とチャンスを与えない。銀行は金を貸さない。キャピタルも投資しない。
只でさえ厳しいベンチャービジネス。そこに個人の思惑、陰謀が絡まりあい、事態は思わぬ方向へ転がっていく。
主人公は林青(リン・チン)。女性起業家。通称アオ。
やはり私は強気な女性が好きらしい。
私の好きなITネタであると言う点を差し引いても、実際これは面白い。
でも、経済についてまるきり基礎知識がないとちょっと辛いかもしれないな…。
ストックオプションについてとか、全然説明ないし。
(2002/6/2)
「ウェディング・キャンドル 「私」を生きる物語」谷崎光 \1,429 文藝春秋
「中国てなもんや商社」の谷崎光、初の小説集です。
短編小説5編を収録した本書、おお、意外にも良いです。
恋愛小説。こういうものも書けるんだったのか、これからも書いてくれよ、とエールを送りたくなった。
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「猫と魚、あたしと恋」柴田よしき \1,600 イースト・プレス
猫は水が嫌いなのに、どうして魚が好きなんでしょう?
女の子は辛いこと、苦しいこと、めんどくさいことなんかみんな嫌いなはずなのに、なぜ、いつも恋を追いかけているのでしょう?
辛くなく、苦しくなくて、面倒でもない恋なんて、どこにも転がっていないって、みんな知っているのに。
あとがきより。 柴田よしきって、ロマンチストなのだ。
「炎都」シリーズを読んでも「RIKO」シリーズを読んでも思ってたけど。
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「ささらさや」加納朋子 \1,600 早川書店
突然の交通事故で、夫を失い、赤ん坊と二人取り残されたサヤ。
お人よしで世間知らずで、心配性で気が弱い、そんなサヤを心配して、ゴーストになった夫が他人の身体を借りて現れる。
日常生活のささやかな謎を描かせたら天下一品の加納朋子。
今回も、やさしい風が通り過ぎるような作品集です。
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今回は女性作家の短編集を集めてみました。
女性向け。
目玉がなかったってのもあるけど(^^;)。でも、どれも秀作です。
(2002/6/9)
「誘拐ラプソディー」荻原浩 \2,000 双葉社
「オロロ畑でつかまえて」「仲良し小鳩組」「噂」の荻原浩、今回も文章が絶妙です。
人生に落ちこぼれた伊達秀吉、38歳。前科もち。
三度目の刑期を終えて出所して、勤め始めた工務店の親方をぶん殴って、横腹に斉藤工務店とあるカローラバンと5万円盗って逃げてきた。
所持金は残り236円。サラ金の借金はあるし、もう行き場はない。
自殺を覚悟して、寂れた丘の上の公園にやってきた。そこで会ったのは、家出をしてきた少年。
そしてお決まりのストーリーが展開します。
秀吉は天から振って沸いたような幸運に喜び、少年を誘拐して身代金を手に入れようとする。しかしその少年は実はヤクザの親分の一人息子で…。
スラップスティックストーリの始まりです。
秀吉の情けないお人よしぶり、誘拐された伝助少年ののほほんぶりが、物語に緊張感を与えない。楽しいったらもう。
大笑いのおばかさんぶりの中に、ほろりと涙を誘われるシーンがあったりして、いいんだよぅ。
老若男女を問わずのお奨め本です。
(2002/6/16)
「デッドウォーター」永瀬隼介 \2,000 文藝春秋
以前「サイレント・ボーダー」を紹介したことのある永瀬隼介の最新作。
ルポライターである加瀬隆史。収入も少なく、保証人なしには賃貸マンションの更新もできないような男だが、一発逆転、世間の注目を引くネタを追っている。
取材対象者は穂積壱郎。8年前、18歳で5人の女性を犯し殺した連続殺人犯。
一審二審とも死刑判決が下りており、今は最高裁の判決を待つ未決囚。このままであれば、死刑裁決は間違いない。
しかし穂積は怖れない。
「この世は所詮デッドウォーターなんです。大雨のあと、河原に取り残された水たまりの中で、取り残された魚は死んでいくしかない。この世の人々は皆、その魚と同じです」
超然として殺した女のことを「業苦から解放したのだ」と言ってのける穂積に、隣房の男は心酔する。
穂積を中心に、運命はねじれ、精神は歪む。
取り憑かれたように取材を続ける加瀬の前に突きつけられる真実――。
読むほどに追い詰められる。
絶望が迫る。
足元から這い登る恐怖。
小説もいいけどノンフィクション向きの文章なんじゃないかと密かに思っていたら、本当にノンフィクションも書いているらしい。というより、そっちが本業?
本名の「祝康成」名義で出してる本のほうが小説より多いらしいわ。
なるほど、きっちり詰めた文章はノンフィクションで培ったものだったか。納得。
寡作である理由もわかった。
しかしできれば、小説にもっと力を入れてもらいたいものだ。
(2002/6/23)
「ダイスをころがせ!」新保裕一 \1,800 毎日新聞社
34歳、一流商社でバリバリに働いていた筈が、ひとつのプロジェクトの失敗から歯車が狂い始め、ついにリストラされる。
思うような転職先も見つからず、妻の視線は日に日にきびしくなる。
ハローワークに通い鬱々としているときに、高校時代の親友にして恋敵だった男が声をかけてきた。
「地元に帰って衆院選に立候補する。手伝ってくれないか」
政治はそんなに甘いものじゃない。冷たく断るものの、夢を語り将来を語る友の姿に、己の情けない姿を重ね合わせ、このままで終わりたくないと思い始める。
故郷にはかつての同級生たちがいた。
新聞社を辞職して立候補する、その友人の選挙資金は、34歳までにためた貯金と退職金。
ホームページを開いて、その支出を1円単位までオープンにする。
選挙活動のあいだに、かつてのプロジェクトの裏事情が次第に明らかになっていく。隠されていた陰謀。
えーと、選挙ネタの本です。
具体的な個人名とかメモしないで図書館に返しちゃったんで、ちょっと説明が分かりにくいかも。ごめんなさい。
新保裕一なんで、政治一色でなく、陰謀を暴くというミステリの味わいつき。
でもまぁ、味わい程度ですね。
今、中日新聞で、「政治を変えてみませんか」って連載記事が載ってるんで、影響受けてこの本を紹介してみました。
選挙の仕組みっていうのを、この本では分かりやすく説明してます。
無所属で立候補するのがどんなに不利か。
法律を作る連中は、自分たちに不利になるようには絶対にしない。ものすっごく納得いかない仕組みになってます。
理想論ばかりでは政治は変わらないとは思う。だけど、理想すらなくて、何ができるだろう。
不平不満を言っているだけでは何も変わらない。
不満の的となっている政治家を選んだのは、ほかならぬ私たち自身だ。
少なくとも、私は棄権しない。
(2002/6/30)
「JULIET(ジュリエット)」伊島りすと \1,400 角川書店
第8回日本ホラー小説大賞受賞作。
阪神大震災で、看護婦だった妻は過労死した。
住宅ローンの連帯保証人になっていた友人が自殺した。
友人のローンと自宅のローン、どうにもならず自己破産した。
中学二年の娘と就学前の息子を連れ、健次は南の島に来た。
バブルの遺産、打ち棄てられたクラブハウスの管理人として。
島に着いた初日、息子にせがまれて貝を捕る。貝殻を残すために、その身を取らねばならない。島の老人が「魂抜け」と称する身の抜き方を教えてくれた。
「でもな、あんたたち、抜けるとこ見ちゃなんねえよ。のりうつられっから。死んじまったものたちの思い出に喰い殺されるんだよ…」
のりうつられるまでもなく、彼らは皆、思い出に取り付かれている。
健次は妻の。(震災で過労死)
娘は友人たちの。(自殺したクラスメイト。鳥になった少年)
子は近所の飼い犬の。(中学生の悪辣ないたずらで首を落とされた)
…普通、こんなに死の思い出に取り囲まれてはいないと思うのだけど、そういう家族だからこそ、思い出に取り付かれるのだとはいえるだろう。
思い出が実在をはじめる。
ちょっと冗長に過ぎる部分もある。
納得いかない描写もある。
しかし概ねホラーらしくて宜しかったです。
子供たちの視点がけっこううまい。
それにしても、ホラー小説大賞の選考委員にいつまで林真理子をおいとく気だろう。ずれまくってて鬱陶しいことこの上ない。