お奨め本メール
2002年7月〜10月
(2002/7/7)
「クリプトノミコン」 ニール・スティーヴンスン \880 ハヤカワ文庫
正確には、「クリプトノミコン 第1巻 チューリング」。
全4巻の予定です。
その1巻を読んだだけで紹介するのもどうかとは思うが、面白かったんで。
第二次大戦を舞台に、アメリカ海軍音楽隊を経て暗号解読チームの責任者になったローレンス・プリチャード・ウォーターハウス。
同じく第二次大戦中、アメリカ海兵隊下士官としてアジアを転戦したボビー・シャフトー。
そして時は流れ、半世紀後のフィリピンで、友人とともに通信ビジネスを立ち上げようとするランディ・ローレンス・ウォーターハウス。
この3人の視点を繰り返しつつ、話は進む。
最初はちょっとこんがらがる。
実はSFです。ローカス賞受賞。っていっても、ローカス章がどんな賞だか知らないんだけど。
実際読んでても、どこがSFなんだか分からんかった(^^;)。
きっと第2巻以降がSFなんだろう。
面白かったのはローレンス・ウォーターハウスの数学的思考です。
たとえば友人のチューリングとサイクリングをする。チューリングの自転車はチェーンに緩いリンクとスポークがねじれてるところがあって、すぐに外れる。しかし毎周ごとに外れるわけではなく、特定の位置関係になったときだけで、その位置関係とは…。
延々5ページにわたって説明が続く。説明は全然わかんないし、読み飛ばしたけど、こういう思考って好きなの〜。
ウォーターハウスは一事が万事こんな感じで、この人の登場シーンになると楽しいったら。
一般人とのずれ方がたまんないっす。
さて、2巻以降はどう展開していくのかな。
(2002/7/14)
「0番目の男」山之口洋(やまのぐち よう) \381 祥伝社文庫
長すぎない短すぎない中編小説の愉しみ というコピーで、祥伝社が文庫を出している。
中編なだけに、お値段もお手軽価格で税込み400円。いいですねえ。
これがまたラインナップが良いんだ! 加門七海に恩田陸、西澤保彦に倉阪鬼一郎、小林泰三に北川歩実、五條瑛ときたもんだ。
図書館で少しずつ借りてるんだけど、残念なことに、ラインナップの割に、傑作が少ない。
北川歩実も五條瑛もいい味出してはいるんだけど、長編の方がより良いものだから、ついつい点が辛くなる。
加門七海と恩田陸は、ちょっと今イチ。
で、山之口洋。
「オルガニスト」以来、久々の紹介です。つーか、私もこの2作しか読んでないわ。そして読んだ2作とも紹介しちゃうんだから、かなり私のツボに合ってるらしい。
面白かったんです!
ホテル・ウズベキスタン。
エフゲニィ・ワシリーエビッチ・マカロフは70年の眠りから覚めて、《マカロフ・クラブ》を訪れた。
マカロフであることが入店の条件。
マカロフであること。増殖個体群(マルチ・プリカンド)と呼ばれる、一人の男から産まれたクローンたち。
21世紀初頭、深刻な環境破壊などの危機を打開するために、クローン技術によって優秀な人材を大量生産する計画が実施された。
その「親」となったマカロフ。
70年の人工冬眠から覚めて、彼が目にしたものは、あり得たかもしれない自分の別な人生たち。
同じDNAを持つ、遺伝子的には同一人物でありながら、バーテンも詩人も映画監督も、はては刑事や泥棒まで。
環境工学技術者として、その仕事に誇りを抱き、他の進路について考えもしなかったマカロフは、己の中の無尽蔵な可能性に感動する。
同じ顔を持つ人間でも、生きてきた人生によって、表情が変わる。
皺が違い、服の趣味が違って、まるで違う顔に見える。
クローンとはなにか。個性とは何か。
もちろんこれは山之口洋のクローン観に過ぎないわけだけれど、ちょっといいです。
これ、西澤保彦あたりがちょっとひねったら、犯人も被害者も刑事も全部同一人物(クローン)という設定で面白ミステリができそうだ。
山之口のカラーじゃないから、今回はそーゆーのはナシ。近い部分はあったけど。惜しいな。
(2002/7/21)
「なつこ、孤島に囚われ。」西澤保彦 \381 祥伝社文庫
「両性具有迷宮」 西澤保彦 \1900 双葉社
たまたま予約してた本が届いた日、未読の本を棚で発見。
両方借りて、さて読もうとしたら、主人公が同じ名前。あらびっくり。
偶然にも、知らずにシリーズ物を借りたらしい。
順番確認して、「なつこ〜」から読みました。
ちなみに「なつこ〜」は、前回紹介した祥伝社文庫の一冊。
以前、「あんただけ死なない」という本を紹介したことがあります。覚えてる?
その作者が森奈津子。主人公はこのヒトです。
つまり、西澤保彦が仲間の名前を使ってるのね。
森奈津子のほかにも、牧野修に倉阪鬼一郎、図子慧と、びっくりするくらいに私好みの名前が連続登場。ここで紹介してるレギュラー陣ですわ。
このメンバーが飲み仲間だって言うのは、きっと実際にそうなんだろうな。ああ、仲間に入れて〜。
「なつこ〜」の方は、ちゃんとした(?)ミステリです。
「両性〜」はちょっとSF風味のミステリ。
そしてどちらもエロティック、つーか、すけべ〜〜〜!!! あー、面白かった♪
森奈津子嬢は「あんただけ死なない」をお読みいただいた方ならお分かりのとおり、バイセクシュアルもの書いてます。
それもお耽美じゃなくてちょっとSMはいってたり、お笑いだったり。
本人はいたっておっとりしてるけど、おっとりしながらねちっこくすけべ。そーゆーキャラが遺憾なく発揮されております(^_^)。
(小説内キャラのことですよ)
「なつこ〜」は、ある日見知らぬ女に拉致されて孤島に囚われた森奈津子と、となりの島で発見された死体をめぐる物語。
論理的です。ストーリー自体は。
「両性〜」は、ある日宇宙人が起こしたトラブルに巻き込まれて、股間に一物が生えてきてしまった女性たちと、彼女たちを狙う連続殺人事件の話。
いきなり宇宙人(白熊タイプ。カワイイ)が出てくるあたり、西澤らしくトンデモ設定です。
トンデモの中、ユーモアにあふれているかと思えば、陰惨な殺人事件が起きたり、読み応えアリ。いや、殺人がいいと言ってるんじゃないけど。
特に「両性〜」のほう、西澤のセックス観が窺えて、それが大変好感が持てて宜しいです。
この人大変フェミニストなんだなー。いい人だー。
是非二冊セットでどうぞ。
(2002/7/28)
「日輪の遺産」 浅田次郎 \733 講談社文庫
「蒼穹の昴」の原点、幻の近代史ミステリー。
元々は1993年8月刊行。
終戦史は面白い、と浅田自身が強く思っていることが前面に出ている。
帝国陸軍の財宝、それもフィリピンのマッカーサーから奪ったものだという設定はわくわくものだ。
北上次郎の解説にあるように、宝探しの物語で終わらず、人間を語るところが浅田の魅力だ。
マッカーサーはフィリピンで現在の価値にして約400兆の財宝を隠し持っていた。それはフィリピン独立のために使われるはずだった。
しかし、フィリピンが独立するときは、合衆国のお声がかりであってはいけない、当初の理念は立派であった大東亜共栄圏の理念に基づき、帝国陸軍はその財宝を奪い、日本に持ち帰る。
敗戦の色濃い帝国陸軍は、2人の男を選び出した。財宝の半分200兆を隠し、将来の日本を立ち直らせるために。
そのために徴用されたのは、女学校の生徒たちだった。
迷いのない目で言われたとおりに素直に働く娘たち。自分たちが何をしているかも知らず、ただただお国のためにつらい労働に文句ひとつ言わず。
終戦前後。時代が狂っていた、日本。
バブルがはじけた現在の日本と交互に語られる。
経営する不動産会社の不振をどう乗り越えるかに腐心する男が偶然知り合った老人。老人こそが、日本を憂い、宝を隠した男の一人だった。
マッカーサーの行動は納得いかないし、男たちの行動はきれい事過ぎると思う。
だけど、日本人の、民衆のことだけを最後まで考えた小泉の最後は確かに美しい。
高潔なる魂は確かに存在した。
夏にふさわしい、終戦記念日の前後に読むのがふさわしい一冊であろうかと思います。
(2002/8/4)
「海を見る人」小林泰三 \1,700 早川書房
早川書房の「ハヤカワSFシリーズ Jコレクション」というシリーズの中の一冊。
このシリーズはラインナップがなかなかすごいぞ。
この小林泰三のほか、牧野修に野尻抱介。
野尻抱介は来週紹介。
さて、「海を見る人」。ハードSFです。科学的です。
短編集になってまして、基本的に都市型宇宙船を舞台にした物語が7編収録されています。
本書の中では実に科学的に時間の流れであるとか重力についてであるとか、説明してまして、あとがきでは「電卓片手に読むと二倍楽しめる」と書いているほど、科学的に根拠のある内容なようです。
「ようです」としか言えない私はもちろん、科学的な説明部分は雰囲気を楽しむにとどまっております。それでも充分面白いのさ♪
充分に発達した科学は魔法と変わらない。というのはアーサー・C・クラークの言葉。昔の人が見たら、パソコンだって魔法の箱だ。
現代人にとってだって、パソコンの仕組みまで理解してる人なんてほんの一部。私だってブラックボックスとして利用してます。
表題作の「海を見る人」。
これは時間の流れをモチーフにしてます。光速に近づくほど、時間の流れは遅くなる。
宇宙旅行に出て、準光速で旅をするとウラシマ効果が起きるってヤツですね。
旅人はほんの数週間しか過ぎていないつもりでも、地上では数十年も経っていたりするという。
それをちょっと極端にした設定だと思って読んでください。
そういう設定を利用した純愛ものなの。
「独裁者の掟」は舞台を宇宙にしなくても、現代地上を舞台にしても十分成立するし、「キャッシュ」の設定は大前提だから動かしようがないけど、物語自体はミステリだ。
盛りだくさんで、大変楽しめる一冊です。
さて、作者の小林泰三が実は、8月3日に名古屋栄の丸善書店でトーク&サイン会を行いました。
トークの相手は牧野修。この面子! 行かいでか!
小林泰三のサインと、ゲストだからだめかなーと思いつつも一応「MOUSE」を持参した牧野修のサインを首尾よくGETしまして、ご満悦のワタクシでした。
トークも楽しかった! 牧野修が話し上手なんだよ〜。
しかし出席者がほとんどどこかのSF同好会のノリで、皆さん顔なじみだったようで…。ちょっと居心地悪かったかな。
(2002/8/11)
「太陽の簒奪者」 野尻抱介 \1,500 早川書房(J-コレクション)
「ふわふわの泉」を以前紹介したことのある、野尻抱介。
一転、硬質なハードSFです。
2006年、水星の地表に建築物が発見された。
大気のない水星では、加速して解き放つだけで物資は宇宙空間に投射される。建築物は水星の惑星資源を投射し、それらは太陽を中心とする半径四千万キロの円軌道に乗り、巨大なリングを形成しはじめる。
2006年当時、高校二年生で天文部の部長だった白石亜紀は、リングの謎を解明すべく、理学部へ進み、宇宙科学センターの比較惑星学研究室に進路を取った。
太陽系外の知的異生命体が送り込んだと思しきナノテクマシンに、ファーストコンタクトの夢を抱く亜紀。
リングは地球の日照をさえぎる。気象の激変。経済の混乱。食料は一部配給制となった。
リングを破壊するためのプロジェクトに参加する亜紀。
「異星文明との出会いが私の夢です。リングの破壊に加担するのは、いつかその建設者と本当に出会いたいから。そのためには、私たちが生き延びないと」
破壊プロジェクトまでが第一部。
第二部は、ファーストコンタクトまでの道のり。
そういえば「ふわふわの泉」もファーストコンタクトものであるな。ある意味で。
99年に本書の短編版がSFマガジン読者賞、星雲賞を受賞した。その長編化とのこと。
アーサー・C・クラーク的な硬質な叙情をかもす宇宙SFの書き手として今後の活躍が期待されている、と作者紹介欄にある。なるほど、硬質な文章はクラークを思わせる。
その硬質なハードSFの主人公に女性を据える。
大変うまくマッチしてます。
なすべきことの優先順位を付けることができる。単純なことだけど、とても大切なこと。
どうやら、第一部がもともとの短編部分。
第二部は第一部の約二倍の長さで、結果約三倍の長さになったわけだけど、全然冗長さがなく、それどころか、ほとんど端折ってるくらいの印象を受けかねないほどのスピーディさです。
最近のSFは面白い!
先週紹介した「海を見る人」に引き続き、満足至極の一冊です。
(2002/8/18)
お休み。
(2002/8/25)
「イン・ザ・プール」奥田英郎 \1,238 文芸春秋
伊良部総合病院の地下一階には神経科がある。
そこにいるのは医学博士・伊良部一郎と看護婦のマユミさん。
五編収録の短編集である本書には、伊良部センセイと患者が繰り広げる騒動が収まっている。
表題作「イン・ザ・プール」は、自律神経の失調から内臓不調を引き起こし、内科に通院していた雑誌編集者が神経科に回されたところから話が始まる。
運動を進められてプール通いを始めたところ、すっかり水泳にはまってしまい、毎日2キロ泳がなければ禁断症状が出るほどに。
しかしセンセイあわてない。
「体が泳ぎたいって求めてるんだもん、正直に従ったほうがいいよ」
それどころか一緒にプール通いをする挙げ句、「指導員に邪魔されずに思う存分泳ぎたいよね」と、患者をそそのかして夜のプールに忍び込もうとする始末。
患者はセンセイの姿に我に返り、ようやく現実に帰ってきましたとさ。
ほかにも自意識過剰のコンパニオンやら、ケータイ依存症の高校生やら、強迫神経症のルポライターやら。
患者たち、みなセンセイに振り回されてます。タバコの火を消したかどうか心配で何度も何度も家に戻っては確認を繰り返して、社会生活が送れなくなりそうだと苦しむ患者に対して、「タバコだけ心配しても仕方ないじゃん。漏電とかおきたらどうするのー」とさらに不安に拍車をかけるようなことを言ってのけたり。
奥田英郎は「最悪」「邪魔」で評価が高く、シリアスなミステリ向きな人かと思われてますが、こういうおかしな話も書いたりする。
私は「最悪」あまり面白いと思わなかったから、こっち向きの人だと思ってますけどね。
「ウランバーナの森」はメチャ変だった。おすすめ。ジョン・レノンをモデルにしたと思しき主人公の、えー…、なんだ、便秘をテーマにした…うわー、こう書くと身も蓋もないな、ま、そーゆー話。ふぁんたじーですぜ。
先週はお休みしてしまいました。
だって8月18日は我が愛しの「張學友」の来日公演だったんだもの! とてもメールどころの騒ぎではありませんでした。
身も心もとろんとろんにな って帰ってきましたわ〜(*^_^*)。思い返してもうっとり…。
(2002/9/1)
「13階段」 高野和明 \1,600 講談社
2001年度第47回江戸川乱歩賞受賞作
死刑制度に対して真っ向から取り組んでいる、実に読み応えのある作品です。
昨年の発売当時から気になっていたのだけど、このたびようやく読みました。
三上純一。25歳のときに居酒屋で居合わせた男性客に絡まれ、喧嘩の末、相手を死亡させてしまった。実刑2年。
仮釈放となり、両親の元に帰った純一に知らされたのは、被害者の親族への慰謝料が七千万もの大金だということ。
住み慣れた家を売り、借金に追われる両親。
そんな純一のもとへ、刑務官の南郷が現れる。弁護士事務所の手伝いをしないか、と。
「死刑囚の冤罪を晴らす。成功報酬は一千万」
だが、その行為の裏には、陰謀が張り巡らされていた。
死刑囚は樹原亮。
保護司をしていた宇津木夫妻が、手斧で惨殺された事件現場からすぐそばの路上で、バイク事故を起こして倒れているところを発見された。
彼の所持品の中に、被害者のものであるキャッシュカードがあり、また着衣には被害者のものと思しき血痕があった。
しかも、交通事故の後遺症で、樹原には前後数時間の記憶が失われていた。記憶がないばかりに検察の主張に反論もできず、記憶がないゆえに改悛の情も当然見せられない。
その樹原が最近、失われた記憶の一部を思い出した。階段を上っていた、と。
それだけの手がかりを元に、二人は事件を洗いなおす。
しかし。
純一は気づいた。
冤罪の死刑囚を救う。それはいい。しかし真犯人をみつけたら、そのとき真犯人は? 結局は別の人間を死刑台に送り込むことになる。
犯罪者の命は、犯した罪の重さに反比例して軽くなる――。
人の命の重さを誰が量れるのか、如何に量れるのか。
(2002/9/8)
「ルール」古処誠二 \1,600 集英社
「UNKNOWN」でデビューした古処誠二。
その後の「少年たちの密室」「未完成」とも大変私好みで、チェックの入ってる作家です。
「UNKNOWN」は自衛隊地方基地を舞台に、いじましくもなさけない盗聴事件を登場人物の魅力で見事に描いて見せました。
同じキャラクタで書かれた「未完成」で、思えば「ルール」に描かれた戦争の理不尽さが現れ始めていたのでしょう。
いや、「UNKNOWN」で自衛隊を舞台にしたときに、軍隊とはいえない軍隊を描くことで古処は日本の歪みを既にテーマに選び取っていたのかもしれない。…私のまったくの想像ですが。
「ルール」は、太平洋戦争敗戦間近なフィリピンが舞台である。
ジャングルの中、弾薬を移送する任務を負った小隊。捕虜である米兵パイロットの視点を交えつつ、過酷な彷徨を冷静な筆致で描く。
本体とはぐれた中尉以下3名は飢えと怪我とマラリアに苦しみながら原隊合流を目指す。ゲリラよりも恐ろしい、日本軍の敗残兵から逃れて。
ジャングルは、ごく少数の原住民をやさしく養う。しかし集団でやってくる日本兵を養えるほどやさしくは無い。
ヤシの実。芋。野生の実りはごくわずかだ。かたつむりを食べ、己の血を吸った蛭を食い、足りずに友軍の肉を狙う。
――死人を食うべからず。
実際にこのような通達が出されたことを、私は初めて知った。
人を人たらしめるものとは何か。
人は食べずに生きられない。しかし彼らはそれ以上のものを求められていた。
食べずに戦え。
古処誠二がこの本を出したことを知ったとき、私が持ったのは「青いなあ…」という感想。
このテーマは、人間の感情を前面に出しやすい。感動を引き出しやすい。それを狙ったのであろうと思った。
その後読んだ書評では、文章に説得力が無いと酷評されていた。密林が描けていない、と。
だからちょっと手に取るのを躊躇していたのだが…。
古処が描きたかったのは戦いそのものではなく、ジャングルのサバイバルでもなく、人の生き方なのだ。
生きること。
人を人たらしめるものとは何か。
(2002/9/15)
「じつは、わたくしこういうものです」クラフト・エヴィング商會 \1,900 平凡社
世にも珍しい商売をしている人たちを紹介しています。本人顔写真入。
「じつはわたくし、月光密売人です」。
――どなたにでもお売りしますよ。「特別会員制」とか、そういうことではないんです。私は「ただの月光売り」というのが好きなんです。角の豆腐屋さんと同じつもりでやってます。「月、一丁頼むわ」「あいよ」そういうのが理想的なんです。――
ほかに、「秒針音楽師」「果実勘定士」「チョッキ食堂」「沈黙先生」「白シャツ工房」「バリトン・カフェ」「ひらめきランプ交換人」「シチュー当番」etc…。
なにそれ、どういう仕事? と思った方、是非お読みになってみてください。そして感心してください。
あ、シャレの分からない人は怒るか呆れるかしちゃう可能性もありかな(^^;)。
もともとは雑誌「太陽」に連載されたもの。連載中は問い合わせが相次いだそうです。さもありなん。
クラフト・エヴィング商會は、以前「どこかにいってしまったものたち」を紹介したことが…なかったっけ?
これは当時の友達に個人的に知らせただけだったかなあ? 本書と似たコンセプトの本です。
って言えば、読んだ人は「じゃあ、コレもアレか」とお分かりになることでしょう。読んでない人には全然わかんないね。ごめんなさい。
でもコレ、あんまり説明しないほうがいいのよ。いったいどういうこと? と不思議がりながら、併せてお読みいただけたらなあと思います。
(2002/9/23)
「青空の卵」坂木司 \1,700 東京創元社
連作ミステリ。
主人公・坂木司は外資系保険会社に勤めるサラリ−マン。
普通の会社員よりはちょっとだけ時間が自由になる。その時間を使って、せっせと入り浸るところがある。鳥井真一という友人の家だ。
彼は引きこもりで、坂木が誘わなければ、500メートル先のスーパーにも行こうとしない。買い物のほとんどはインターネットの通販で済ませる。ちなみに職業はプログラマ。
という二人のホームズ&ワトソン物語。
想像が付くでしょうが、ひきこもりの鳥井がホームズ役。
ひきこもりである鳥井はコンビニにも行こうとしないわけで、自炊するわけです。この料理がおいしそう! 鳥井の作った料理を食べてみたいぞ!
というのがこの小説の魅力のひとつだな。
登場人物がまた、味わいがあってよろしいです。
事件のたびに友人が増えていくんだけど、それが盲目の美青年や歌舞伎の女形だったり、メキシカン・プロレスのレスラーだったり。
町のおまわりさんは高校の同級生で、これがまたおいしいキャラだ。
この二人の人間関係はちょっと行数割かないと説明できないな。
坂木は鳥井が大好きで、鳥井は坂木にすっかり依存している。お互いにお互いを大事に大事に思っている。
ま、まともに考えたら気色悪い世界かもね。
しかし、ある種の女性にとっては大変煩悩を刺激する世界でもあるのだわ(←私のことだ)。
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「スローグッドバイ」
石田衣良 \1,500 集英社
上記の本はちょっと片寄ってるかもなので、フツーの恋愛小説をひとつご紹介。
女性にお奨め。10篇入った短編集です。
一つ一つが短くて読みやすいし、ベッドの中でひとつ読んで、ふんわり暖かい気持ちになって眠れたらいいなあと思う、そんな本。
昨日はまたも、歌神・張學友に会うため上京。てわけで一日遅れのお奨め本メールです。
今度はNHK-BSで放送するの。受信できる方、よろしかったらご覧ください。放送日はまだ未定だけど。
(2002/9/29)
「未熟の獣」 黒崎緑 \1,600 小学館
微妙にお気に入りの黒崎緑。
精神を病んだ人間の感情表現がうまい。
今回は公園デビューができずにノイローゼになる母親とか。歪んでしまった心の持ち主のモノローグがうまい。
だからといって歪みばかりをクローズアップにするのではなく、そもそもその歪みは娘を思う気持ちから起きている。
世間とうまく折り合いをつけて生きていきたい小市民の焦り。ささやかに幸せを願う気持ちを描写する力にも、黒崎緑は長けている。
そのバランスが、うまい。
公園で幼い少女が殺される。その手にダイイング・メッセージを握り締めて。
第一発見者の男の恋人である作家、同じく第一発見者である主婦、そして犯人のモノローグを交え、物語は進む。
再び起きる幼女失踪事件。その意外な結末。
更に起きる幼女殺人事件。
錯綜する情報。
犯人のモノローグが、ミス・リードを誘っているようで、でももしかしたら素直に読んでいいのかしらと、ミステリずれした読者を惑わせる(^^;)。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「壺中の天国」 倉知淳 \1,900 角川書店
なぜか私の中で黒崎緑と倉知淳はとても近い。同じ頃に知ったからかなあ。
作風もけっこう近いし。
なのでついでに御紹介。
これも連続殺人事件。ただし幼女ではありません。
被害者に一見つながりがない。ミッシングリンクはいったい何か?
これも、モノローグ部分に惑わされたな。
「壺中の天地」という言葉がある。俗世間から離れた別世界のこと。つまり現実から逃避して逃げ込んだ世界ね。
壺の中で、壺の中だけでも幸せでいられるなら、それもいいな…。
(2002/10/13)
「沈黙のメッセージ」他 \840他 ハーラン・コーベン ハヤカワ文庫
マイロン・ボライター・シリーズ
シリーズ第5作「パーフェクト・ゲーム」の解説で久美沙織が主人公マイロン・ボライターを「へらず口ヒーロー」と評している。そう、この言葉ぴったり。
愛すべきへらず口野郎。
主人公マイロンはスポーツ・エージェント。
プロ選手の代理としてチームと契約交渉をまとめたり、CM出演契約をしたり。
元バスケット選手で、大学時代は名選手として名を馳せた。
プロ入り最初の練習試合で相手チーム選手のラフ行為が元で大怪我、引退。その後ハーヴァードで弁護士資格を取り、スポーツ・エージェントの道に進む。
その間にはFBIの仕事をしたり、いろいろ紆余曲折も。その紆余曲折がシリーズ第1作にいきなり当たり前のように書かれているので、「あれ? これって前作あるの?」と疑問を持ってしまうほど。
登場人物がまた多彩。マイロンの相棒、ウィンザー・ホーン・ロックウッド三世という貴族的な名を持つ男は実際貴族的で、名前があらわすとおりの風貌を持つ白人男性。好みだ!
しかしてその正体はサイコ野郎で、暗黒街の大物がウィンの名を聞くと青ざめるってくらい。おお、さらに好みだ〜〜。
他にエージェント事務所の秘書であるエスペランサ、恋人のジェシカ、個性的で魅力あるキャラクタぞろい。
現在シリーズ第7作まで出ているのかな?
1作読みきりなので、どこから読んでも楽しめるんだけど、人間関係の変化とか、やっぱり発表順に読んだほうが楽しめるでしょう。
「沈黙のメッセージ」「偽りの目撃者」「カムバック・ヒーロー」「ロンリー・ファイター」「スーパー・エージェント」「パーフェクト・ゲーム」「ウイニング・ラン」
マイロンとウィン、エスペランサの会話が絶妙! いいなー、好きだなー。
この会話を楽しむためだけでも読む価値あり。
文章が良くてキャラが良くてストーリーが良くて構成が良ければ、これ以上何を望むことがあるでしょう。
久々に翻訳モノで楽しめるシリーズモノに出会えて嬉しいのだ。
(2002/10/20)
「パイロット・フィッシュ」 大崎善生 \1,400 角川書店
「聖(さとし)の青春」で一躍脚光を浴びた大崎善生。
「パイロット・フィッシュ」は初の小説です。
出版は実は去年の秋。読もう読もうと思ってる間に時は過ぎる。去年の秋から、私、忙しいしさ〜。(何に忙しいって…もう…(汗))
――人は、一度巡りあった人と二度と別れることはできない。なぜなら人間には記憶という能力があり、そして否が応にも記憶とともに現在を生きているからである。
人間の体のどこかに、ありとあらゆる記憶を沈めておく巨大な湖のような場所があって、その底には失われたはずの無数の過去が沈殿している。何かを思い立ち何かを始めようとするとき、目が覚めてまだ何も考えられないでいる朝、とうの昔に忘れ去っていたはずの記憶が、湖底から不意にゆらゆらと浮かび上がってくることがある。
冒頭の一節です。いきなり書き出しからぐぐぐっと胸に迫ってくるではありませんか。
インパクトが強いとか、掴みがいいとかそういうんじゃなくて、ただ、胸に沁みてくる。
「聖の青春」でも感じたように、大崎善生の文章には人への愛が静かに流れている。
ここでも、愛が溢れていたり輝いていたりするのでなく、しずかにそっと。
最近、本書の続編というか姉妹編とも言うべき「アジアンタム・ブルー」という本が出ました。これも読まなくちゃ。と思って、まず去年のほうから読んだのだけど、去年でこれだけの出来ならば、今年はどれだけ成長しているだろう。当然のように成長を期待してしまうのは読者の驕りだろうか。
(2002/10/27)
「うわさの神仏」 加門七海 集英社文庫
其の一 「日本闇世界めぐり」 \457
其の二 「あやし紀行」 \495
今週のお奨め本は、私のお気に入り・加門七海です。
これは小説ではなく、エッセイ…うーん、紀行文と言って良いのか。
加門七海という人、半端でなく、神社仏閣・宗教関係・オカルト話が大好きです。
それも堅苦しく崇め奉るってんじゃなく、読んでるほうがこらこらいいのか、そんなこと言ってと心配になるくらいに軽い!
本人いわく「神仏ゴシップ芸能記者」だそうだ。
なにを見ても神仏に結び付けて考える。
たとえば、ちょっと古い話題になるけどサッカー、ワールドカップの日本代表のエンブレム。
三本足のカラスがボールを踏んでるデザイン(実は私は見たことない…あるかもしれないけど覚えてない)。これを初めて見たときに、
「えー? 日本のサッカーって熊野信仰? それとも道教の太陽信仰?」
と即座に考えてしまうというのは確かにすごい。
解説すると、三本足のカラスというのは、熊野神社の象徴であり、太陽の象徴でもあるのだそうだ。
加門七海、好きなだけでなく、心霊体質でもあるらしい。いや、そういう人だから神仏に魅かれるのか。心霊体験も書かれている。
私は基本的に心霊体験というのはほとんど眉唾物だと思っていて、自分から「私ってよく幽霊とか見るのー」というような人は、ま、ヒステリーだなと一刀両断にしたりするんですけどね。この人の文は信じちゃおうかなという気になりますね。
どこを読んでも面白いんだけど、私の好みは
其の一 実践! おみくじ講座の巻
其の二 驚天動地! 台湾占いツアー
でしょうか。どちらも占いがらみか。
これ、マジで「おみくじ引きたい!」「台湾で占って欲しい!」って思うよ。
台湾、気になる〜。おみくじも、実は台湾のおみくじがすっごく食指を動かされるのだ。
かくなる上は、中国語を身につけて台湾まで占い&おみくじ目的で出かけてしまおうか。 ←けっこう本気。
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